お家シネマで癒されましょう

第20夜「映画では海辺で何かが起きる」Side-B

映画好きな素人のおしゃべりに、お付き合いください。
今回から、当社の映画博士が検分役ひとことメモで登場。
通仕込みの貴重なコメントを披露いたします。
皆様がひとつでも観たい映画が見つかれば嬉しいかぎりです。

映画 「太陽がいっぱい」 イタリアで見るアメリカン・ドリームは泡沫。

監督:ルネ・クレマン
脚本:ポール・ジャコフ、ルネ・クレマン
原作:パトリシア・ハイスミス
音楽:ニーノ・ロータ

〈Story〉
貧しい青年トム・リプリーは富豪に頼まれて息子フィリップを連れ戻すためにアメリカからイタリアへやってきた。
フィリップには恋人マルジュがいて帰国する気はなく、トムを連れ回しローマで遊ぶ。
そして、フィリップはトムとマルジュを連れてヨットで港を出る。
フィリップはマルジュと二人きりになるために、トムを小型のボートに乗せロープで後方に流すがロープは切れ、トムはボートの上で日干し状態になる。
トムを助けた時には、太陽に灼かれ息も絶え絶えだった。トムは「のけもの」を自覚し、フィリップとマルジュの間を裂こうと計画。またさらに凶悪な計画を構想していた。

太陽がいっぱい

太陽がいっぱい(1960)は、1960年公開のフランス映画です。名作なのに、今では観ていない人が多そう。
監督は巨匠ルネ・クレマン。「禁じられた遊び」が代表作です。

「禁じられた遊び」はギターの曲(ナルシソ・イエペス)で有名ですね。

「太陽がいっぱい」のテーマを作曲したニーノ・ロータ(注1)は「ゴッドファーザー(1972)」のテーマも作ったイタリアの作曲家。主演がアラン・ドロンで「太陽がいっぱい」は、世界的に有名になった出世作。
アラン・ドロンは、二枚目俳優のイメージがあるけど、「太陽がいっぱい」では、ただの二枚目ではなく、他の人を嫉妬して、底辺から這いあがろうとする人間を演じている。

やっぱりアラン・ドロンはかっこいいね。

かっこいいですね。

ここから人気が起爆するのもよくわかる。

物語はローマのオープンカフェで始まって、楽しそうに話をしているの。主人公トム(アラン・ドロン)とフィリップ(モーリス・ロネ)っていう金持ちの青年。フィリップの友人はトムを見て
「この男は誰?」
って言う。トムはフィリップのお父さんが息子をアメリカに連れ戻すために頼んだ青年だから友達ではなかった。
フィリップは自由奔放なドラ息子の典型で、街中で視覚障害者の人の白い杖を欲しがる。「お金をやるからそれをくれ」
「杖がなかったら帰れない」
「タクシー代として金をあげるから帰れるやろ」

尖っていますね。

しかもその杖で視覚障害者のふりをして、女の人にぶつかって、女の人が介助してあげると、それをきっかけにナンパする。

クズ野郎ですね。

最初に出版された原作が「拝啓、リプリー君」だったか。(「The Talented Mr. Ripley 」)映画の前の物語では、トム・リプリーはアメリカでものまねを得意とする貧乏芸人ですぐに人の真似ができる。

そこが後半に生きてくる。
トムはフィリップのお父さんからのお礼の大金を目当てにフィリップに接触しただけで、友情を築けてなくて、フィリップも彼を連れ戻しに来た貧乏人だって思っている。

知っているんですか?

知っているので、トムを見下している。イタリアにはマルジュ(マリー・ラフォレ)っていうフィリップの婚約者がいる。
フィリップはマルジュとトムを連れてクルーザーで出かけるけど、フィリップは恋人といたいから、トムが邪魔になる。大きい船だから、ボートが横にくっついているよね。「ボートの様子を見て来いよ」ってトムに言って、トムがボートに乗り移ったところで、ロープを伸ばしてクルーザーに戻って来られなくする。フィリップと娘さんがいちゃいちゃしている間、トムはボートの上で太陽に灼かれている。
トムはフィリップが自分の境遇がわかった上でアメリカに戻ってくれないし、自分を見下しているので憎悪を募らせていく。

最低ですね。

トムはフィリップを殺そうと思っている。それに気づいたフィリップはトムがお金を得たら、自分を殺さないだろうと思って、「賭けに勝ったらお前に2,500ドルあげる」と言ってトランプゲームをしてわざと負ける。
床に落としたカードを取ろうとするフィリップをトムがナイフで刺す。フィリップの遺体を帆布にくるむとロープで縛って海に沈めてしまう。
その後、トムはものまねの才能があるので、フィリップに成りすまそうとする。タイプライターがあるので、サインだけを真似る。トムはフィリップの口調を真似ることができて、マルジュが電話を架けてきても騙せる。
ある時、フィリップの友達が、フィリップが滞在しているホテルを見つけて、
「最近、マルジュにも会ってなくて、どうしたんや」
と言って訪ねて来ると、トムだけがそこにいる。そこで怪しまれる。なんでフィリップはいないのっていう話になったら、
「僕は挨拶に寄っただけで、フィリップは食事に出かけたよ」
と言ってその場をしのぐ。友達が帰ろうとすると、ホテルの管理人さんが、トムを見て
「フィリップさん」
って話しかけて、正体がばれる。とっさに第二の殺人を犯してしまう。そこから、どうやって成りすましを成功させるのか。

前半とは打って変わって。

ばれるのか、ばれないのか、ハラハラするんです。

お父さんからは「帰ってこい」って言われないんですか。

トムに言っても、トムは何もしない。
トムはフィリップのパスポートの写真を綺麗に剥がして公印を粘土で型を取って偽造するんですね。

サインを模写する練習は、最初は壁にスライドで大きく映して、それをなぞって、それをだんだん小さくしていく。

本人のサインを真似られて、パスポートも偽造しているから本人証明ができて銀行で預金を引き出したりする。

すごいですね。

それで分かったことは、サインを真似するときは最初は大きくして始める。

ああするんやなって。

映画の撮り方は淡々としています。今、観たからかもしれないです。

僕が中学生の頃にリバイバルで観て、スリリングやった。
ニーノ・ロータの音楽が心地いいんですよ。波の上で揺られているようなメロウでマイナーな曲。

場所はイタリアの明るいリゾート地、海辺と海の上だから、景色は綺麗だけど、そこでトムが暗躍している。

二人目の被害者もついに出てしまう。

トムが成りすまし計画で、マルジュを自分になびかせようとする。

説明するとややこしいんですよ。電話はフィリップとして、直接会うとトムとして、切り替えをしないと。

うまく行っていたのに、ホテルの人に名前を言われて綻びが出てしまう。

夏の印象って、明るいだけじゃないんですよ。
僕は小さい時から須磨の海岸近くで住んでいたんで、8月のお盆を過ぎると人気(ひとけ)が消えて、海の家も閉じられて、気だるさが夏の印象。「太陽がいっぱい」も、そんな夏の雰囲気がするんです。

夏の終わり。

でも「太陽がいっぱい」なんでね。最初は「Plein Soleil」ってタイトルが出る。

タイトルの意図は何でしょう?

「太陽がいっぱい」っていうセリフが最後に出てくる。

太陽が何かってことですよね。

富裕層への憧れ。イタリアを舞台にしたアメリカン・ドリーム。(カミュ「異邦人」とも重なるかも)

全体的に日差しが印象的な映画ですよね。フィリップを殺すのも夏の日差しが燦々と注ぐクルーザー船の甲板。

正統派のミステリー。パトリシア・ハイスミスの原作です。

お話がしっかりしている。

ヒッチコック監督の「見知らぬ乗客(1951)」の原作者。
「見知らぬ乗客」は、今でこそよくあるけど、当時は衝撃的な交換殺人。

コウカンって、あの交換?

全然関係性のないAとBが、お互いに殺したい人がいる。ターゲットを交換すると動機が隠せてアリバイも作れる。
他の映画を観ていて「あっ、見知らぬ乗客パターンや」って。

ハハハ。

最初にそのパターンを作ったのはすごいですよね。

うん。「見知らぬ乗客」が原型で、それが類型化していく。

「太陽がいっぱい」の原作は5作もあるって驚きました。
映画と原作では、ラストが違うんですよ。

確かに。

「リプリー(1999)」っていう作品で、リメイクをされている。
トムをマット・デイモン。フィリップをジュード・ロウ、恋人のマルジュをグウィネス・パルトロー。

マリー・ラフォレに代わってグウィネス・パルトローか。

「リプリー(1999)」も脚本は違うけど、わかりやすくて面白かった。

「太陽がいっぱい」はやっぱりラストシーンが印象的。

私も最初に観てから、ラストの印象は残ってましたね。今回、観直したとき、覚えてないなって思ったら、ラストはしっかり覚えていた。

うまいですよ。あそこだけ語ってもいいかも。映画がきちっとしまる。

名作って言われる理由があるんだと思う。きれいに伏線を回収している。

余韻が凄いかな。観たら、サポさんの説明で伏線を張ってたのがよく分かる。「そうか、そういう風に話をするんか」って。

そこが面白いですね。

何回も観たくなる映画の一つです。

Eくん

年間 120本以上を劇場で鑑賞する豪傑。「ジュラシック・ワールド」とポール・バーホーヘン監督「ロボコップ(1987)」で映画に目覚める。期待の若者。

キネ娘さん

卒業論文のために映画の観客について研究したことも。ハートフルな作品からホラーまで守備範囲が広い。グレーテスト・シネマ・ウーマンである。

サポさん

「ボヘミアン・ラプソディ」は10回以上鑑賞。そして、「ドラゴン×マッハ!」もお気に入り。主に洋画とアジアアクション映画に照準を合わせて、今日もシネマを巡る。

検分役

映画と映画音楽マニア。所有サントラは2000タイトルまで数えたが、以後更新中。洋画は『ブルーベルベット』(86)を劇場で10回。邦画は『ひとくず』(19)を劇場で80回。好きな映画はとことん追う

夕暮係

小3の年に「黒ひげ大旋風(1968)」で、劇場デビュー。照明が消え、気分が悪くなり退場。初鑑賞は約3分。忘却名人の昔人。

アラン・ドロン
モーリス・ロネ
検分役の音楽噺

映画音楽のスタンダードでもある「太陽がいっぱい」の音楽ですが、じつは作曲したニーノ・ロータ自身は仕上がりに不満で、公開当時、正式なサントラは発売されませんでした。
しかし、ロータの思惑とは裏腹に、再演奏版が大ヒット。
後にニーノ・ロータも渋々、自身のオーケストラの演目に入れたりしていましたが、正式なサントラが発売されたのは2005年になってからなのです。

映画 「イル・ポスティーノ」シチリアの郵便夫は世界的詩人と浜辺を歩く

監督:マイケル・ラドフォード
脚本:マイケル・ラドフォード、マッシモ・トロイージ、フリオ・スカルペッリ、アンナ・パヴィニャーノ、ジャコモ・スカルペッリ

〈Story〉
青年マリオは、シチリアの小さな島で漁師の父親と暮らしている。
文字が読めることで郵便配達の仕事に就く。届け先はチリから亡命してきた世界的な大詩人パブロ・ネルーダの家だった。
やがてパブロと交流し、詩作に目覚める。二人は友情を深め、パブロはチリに帰る日がやってくる。
数年後、パブロが島に訪れたときに見たものは。。。

イル・ポスティーノ

「イル・ポスティーノ(1994)」これも名作です。あまりタイトルが知られてないかな。

タイトルは聞いたことがあるくらいでした。

私もそうですね。

これはシチリア三部作のひとつですよ。
「ニュー・シネマ・パラダイス(1988)」「グラン・ブルー(1988)」と。僕は「ゴッドファーザー(1972)」も入れたいけど。

四部作にします?

シチリア島の更に小さな島にパブロ・ネルーダ(フィリップ・ノワレ)が来る。
21世紀の最大の詩人、ノーベル文学賞を獲ることになるチリの詩人ネルーダが、チリから亡命してくるんですよ。
ネルーダは、昔外交官でスペインにいたことがあるんですね。スペインの内戦で、フランコ率いる反乱軍と民間軍の戦い。ナチスがフランコ側につく。民間軍にソ連やアメリカが支援をする。ネルーダも民間軍に協力をして、そこで共産主義になるんですね。チリに戻ると、チリでも反乱が起きて、そこでも共産主義として抵抗するけど、チリでは、共産主義は違法なので、亡命することになる。 世界的に有名な詩人が来るので、シチリアで話題になるんです。
主人公の青年マリオ(マッシモ・トロイージ)は、お父さんと二人で暮らしている。お父さんは漁師です。貧しいお家で、海のそばで、窓から見ていると、入江で漁師が小さい舟に乗って投網で魚を獲っている。
青年は郵便局員の募集の張り紙を見て訪ねていく。局長一人でやっている小さい郵便局です。ネルーダの家が遠いので、専任で行ってほしいと。世界的に有名な詩人なんで、手紙がいっぱい届くんですよ。それを自転車に乗って毎日配達に行く。
最初は恐縮しながら届けに行くんです。だんだん慣れてくると、買った本にサインをねだったりね。
そしてある日ネルーダに訊く。
「詩って何ですか?」
「それは隠喩だよ」
「隠喩ってなんですか?」
「君は棒のように立っている」
「私は石のように立っている」
と言い返して、
「それが隠喩だよ」
学問もない暮らしだけど、だんだんと詩を覚える。
「どうしたらうまく書けますか?」
「浜辺を歩くんだよ」
と教えてながら二人で浜を歩く。
青年は居酒屋の女給(マリア・グラツィア・クチノッタ)に一目ぼれするんですよ。のぼせ上がって、声もかけられなくて、ネルーダに彼女への詩の代筆を頼む。
「見たこともない女性に、すぐに詩は書けないよ」
「そんなことじゃノーベル賞獲れないですよ」
ノーベル賞候補にはあがっていたんです。 青年は詩を一所懸命に書いて、女の人に声をかけて詩を読む。そんな男は島にはいないので、好意を持ってくれて、一緒に浜を歩いたりする。彼女のお母さんは
「そんな貧乏な男の人に捕まったらだめよ」
で、またネルーダに相談して二人で居酒屋に彼女に会いに行く。彼女の前で、有名人のネルーダがマリオに
「詩人の君にノートをあげよう」
裏表紙にサインを書く。
その甲斐あって、結婚することになるんですね。ネルーダが仲人役で結婚式を挙げる。
やがて、チリでは共産党員であることが犯罪ではなくなったので、ネルーダは帰っちゃうんです。
そこから音沙汰がない。世界中を旅するような人なんでね、それを映画館のニュースで見たりする。フランスまで来たので帰りに寄ってくれるかと思っても来ない。
マリオはレコーダーにいろんな音を録り出す。奥さんの妊娠してるお腹の赤ちゃんの鼓動を録音したり、海辺のさざ波の音、風の音を、島のいろんな音を録音する。
やがて、ネルーダが島へ戻ってきた時に。。。
という映画です。

なんで音沙汰がなかったんでしょう?

世界的詩人は忙しかったからかな。
「ニュー・シネマ・パラダイス」の映写技師役のフィリップ・ノワレがネルーダ役です。主役の青年(マッシモ・トロイージ)は脚本も手がけている。アカデミー賞で脚本賞と主演男優賞にノミネートされていたけど受賞はしなかった。
撮影が終わって、マッシモ・トロイージは数日後に心臓病で亡くなりました。病気を抱えながら撮影して、完成試写は観れなかった。

すごいですね。

郵便配達員と詩人の関係性が良いんです。二人のやりとりが良いんですよ。

詩人っていうのが良いですね。勉強とまた違いますもんね。

詩作を教えてくれても、そこへ向かえる人とそうじゃない人がいる。

それで浜辺が出てくるんですか?

波の音を録りにいく。

それが物語の伏線にも。

育ったところの魅力って、実は気づいてなかったりすると思うんです。他所から現れた偉い詩人と出会って詩を作ることを知って、改めて自分の土地の情感や、風景の良さに気付くのかな。

見え方や感覚が変わってきますよね。優しい映画です。

友情とヒューマンドラマ。

チリで制度が変わらない限り出会わなかった二人です。
「マレビト」ですよね。遠くからやってきて去っていく人。

シチリア三部作は、同じ監督ではない?

違う監督です。シチリアが舞台になっている映画ってそんなにないかな。

話を聞くだけで綺麗ですよね。

レストランと映画館と真っ青な海。

検分役ひとことメモ

「イル・ポスティーノ」の音楽はアルゼンチン出身のルイス・エンリケス・バカロフが担当し、第68回アカデミー賞作曲賞でオスカーを獲っています。 経歴の長い作曲家で、50年代にイタリアに渡ってマカロニ・ウェスタンも数多く手がけています。 もっとも有名なのが66年の「続・荒野の用心棒」。 ♪ジャンゴ~~!♪のヴォーカルが印象的で、後に北島三郎さんも三池崇史監督の「スキヤキウエスタン ジャンゴ」(07)でカヴァーしています。 「イル・ポスティーノ」の音楽は、ナポリの孤島の港町の情景が浮かんでくる美しい仕上がりで個人的に大好きです。 監督したマイケル・ラドフォードはイギリスの人で、ジョージ・オーウェルの近未来SFの金字塔『1984年』を映画化した、『1984』(84)が素晴らしく、原作を忠実に映画化したいい例の一つだと思います。 リドリー・スコットのように、そういう路線を進むかと思えば、『イル・ポスティーノ』のような作品も撮れるのは、それだけ器用なのでしょう。

映画 「万引き家族」浜辺で戯れる家族がいた

監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和

〈Story〉
柴田治は母初枝と、妻信代、息子祥太、信代の妹亜紀と都内で同居をしている。表向きは初枝は独居老人だった。家族は父母のわずかな給料、初枝の年金と、治と祥太が行う万引きで生計を立てていた。治は近所の団地のベランダで幼い女の子が震えているのを見つけ、見かねて連れて帰る。
夕食後、少女を家へ帰しに行った治と信代は、家の中から子どもをめぐる諍いの声を聞き、再び連れ帰る。少女の身体の傷跡から児童虐待の疑いがあり同居を続けることを決める。やがてテレビで失踪事件として報じられる。一家は少女の髪を切り祥太の妹ということにする。治は祥太との万引きを少女にも手伝わせ少女と家族の絆は次第に深まっていく。
夏になり、一家は海水浴に出かけ団欒を満喫するが、楽しそうに眺める初枝の言動には幻覚を思わせる言動があった。。。。

万引き家族

カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞してから記念上映で観に行ったんです。

日本アカデミー賞は作品賞、監督賞、最優秀主演女優賞(安藤サクラ)、最優秀助演女優賞(樹木希林)。

みんなで揃って海に遊びに行くシーンがあるんですよ。その場面でみんなではしゃぐ姿が印象的でした。

是枝監督は、家族をテーマにしている作品が多いですね。

リリー・フランキーたちが演じている家族は、血縁関係がないんですよ。擬似家族っていうか、家族のように振る舞う光景が印象的。
ベイビー・ブローカー(2022)」も血縁関係がない。社会に生きる逸れものたちが集まって、みんなで笑い合ったりするシーンがあって、偽物家族を描くのが上手いなあと思いました。

是枝監督はいつも家族の本質に触れていて、一緒に生活して助け合って、その中の役割が、お母さんになったり、お父さんになったり、長女や長男になったりするんですよね。段々家族の構成ができて、それでみんなが信頼して生活していたら、それは家族なんじゃないか。いろんな映画でそれを提示してくるんですね。

「万引き家族」はどういう集まりで家族になるんですか?

明確ではないけど。治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)って、婚姻関係はありませんね。初枝(樹木希林)お婆さんが住む家に転がり込んで。

みんながそこに自然に集まってくる。それぞれの事情がある。

樹木希林の孫が松岡茉優。お母さんの稼ぎが悪くて、お婆さんの家に転がり込んでいる。
その近所で虐待されている女の子を家に連れてくるところから始まる。
貧困層やネグレクトが物語に関係しています。

連れてきちゃうんやね。

かわいそうだから。寒い中ベランダで独りぽっちでいた。

でも司法で言ったら誘拐ですね。

それを隠しながら。

それが万引きということですか?

万引きで生計を立てているのよ。
小学生の子供に父が合図を出して万引きさせる。お母さんはパートで働いている。

観客は段々分かってくるんですよね。助け合ってここで暮らしていて、実際の血縁関係ではないけど、それぞれの役割で生活が成り立っている。それは客観的にはよくないけど。

なるほど。

これも家族でしょ、がテーマになっている。

本当の家庭と偽物家庭とどっちにいた方が幸せかなと思っちゃったりして。

他人同士だからいろいろあるけども、家族感を共有できる時が、海のシーンだったりとかね。印象的なのはね、花火を見るシーンがあって、お家でね、軒と軒の隙間からみんなで見上げているシーンがある。

いいですね。

機能不全家族と、他人同士でも共同体として機能しているのとどちらが家族の本質か。

幸せそうだけど、決して裕福ではない。

形になっていくっていうのが見えるのが面白い。そこに感情が入ってしまうんですね。

こんなことしていたら、ハッピーエンドはないです。

難しいところです。万引きや誘拐をするけど、そこに至らざるを得ない事情があった。

アウトローを正当化している映画ではないんです。

誘拐はアウトローです。

誘拐だけども、救出でもある。

見方で変わるのは面白そう。

樹木希林も上手いなあって思うし、リリー・フランキーも松岡茉優も安藤サクラも上手い。

ひねくれた感じがして。

安藤サクラはこの作品で主演女優賞を獲る(第42回日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞)。
安藤サクラは「百円の恋(2014)」とか話題作によく出ている。

素で演技しているみたい、自然体というか。憎たらしいとことか。

そして、夏の海辺のシーン。

みんなで手を繋いで海で遊ぶ。

浜辺の方では樹木希林と安藤サクラが見ている。

樹木希林の遺作でしたっけ。

違うかな。もう最後の方ですね。(遺作「命みじかし、恋せよ乙女(2019年)」)
樹木希林はその前にね、日本アカデミー賞の最優秀主演女優賞(「わが母の記(2013)」「あん(2015)」)を獲っていたんですよ。
2013年の授賞式で「私は全身癌です」って言った。
是枝監督がいいなと思ったのは「海街Diary(2015)」.
そこから是枝監督に注目してしまった。

最近だと「真実(2019)」がありました。

カトリーヌ・ドヌーヴ主演。

邦画も観出すと面白いですよね。
南瓜とマヨネーズ(2017)」が好きです。この前に観たのは「ちょっと思い出しただけ(2022)」。「ナイト・オン・ザ・プラネット(1992)」の一部の日本版っていうか、ウィノナ・ライダーが出ていた話に似ていて、この作品中にも「ナイト・オン・ザ・プラネット」の映画はあるんです。

へえー

その映画を観ているシーンとか。オマージュじゃないですけど、架空の世界の中に架空があるみたいな。

メタっぽい。

そうですよね。

最近の「PLAN 75(2022)」を観ました。75歳から自ら生死を選択できる。主人公の倍賞千恵子がどうするかを悩む話。これが面白かったです。

監督は誰ですか?

早川千絵。長編デビュー作です。第75回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門を受賞しています。

では、そろそろお開きにしましょう。

リリー・フランキー

(対話月日:2022年9月22日)