お家シネマで癒されましょう

第38夜「映画のめぐる時間、さまよう時間」

今宵のテーマは「時間」。
「時間」は映画ごとに出で立ちが変わります。回廊を纏えば、螺旋で飾り、スイッチバックするトロッコのようにステップを踏むのです。

映画 「メッセージ」 未来の出来事を思い出す?

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:エリック・ハイセラー
原作:テッド・チャン

〈Story〉
世界各地に宇宙船が出現し、言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)が召喚される。
物理学者のイアン(ジェレミー・レナー)、陸軍大佐のウェバー(フォレスト・ウィテカー)たちと調査を始める。
ルイーズとイアンは宇宙船にいる2体の地球外生命体「ヘプタポッド」と対面する。
ヘプタポッドが文字を使用することが判明し解読がはじまる。
ルイーズは時折、病で死んでいく娘の未来の光景を幻視するようになる。
ルイーズがヘプタポッドに飛来の目的を尋ねると、ヘプタポッドは『人類に「武器=道具」を与えるため』と返答するのだった。。。

「メッセージ(2017)」はキネ娘さんは初見ですね。

あらすじを知らなくて。時間がテーマのことも知らなかったんで、素直に面白かったです。SFはあんま観ないんですけど面白かった。

SFっぽくないよね。

アクションシーンは無いですしね。公開当時、ポスターは「ばかうけ」(株式会社栗山米菓の製菓)とコラボをしていましたね。

劇場でクリアファイルをもらったんですよ。

そうなんですか。「ばかうけ」のですか。

よく見たら「ばかうけ」でした。

ハハハ

監督曰く宇宙船の形は死を表しているそうです。
町山智浩さんの本には、確かに墓石のように見えるかもしれないと書かれていました。

なるほど、そういう意味ですね。

「ばかうけ」にしか見えませんけど。冒頭で言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)が娘を育てているシーンが描かれていて、結婚しているようには見えなくて、このシーンが頭に引っかかったまま物語が進んで合間にこのシーンが唐突に挟まれる。最終的には判りやすく説明してくれるのですが、最初は戸惑いましたね。

過去のシーンと思って観ていましたね。

未来なんです。

総合的にはアンハッピーエンドですね。

娘さんを亡くすって判かっているけど、イアン(ジェレミー・レナー)のプロポーズを受け入れてその人生に進む。

ハッピーエンドかアンハッピーエンドかは難しいね。

僕はハッピーエンドと捉えますね。辛い未来が待ち受けているのは判っていても。

悲しい出来事と同時に幸せな時間もあるわけで、その上で選択をしているのです。

宇宙人ヘクターボットは時間を超越している存在ですね。彼らにとって時間は過去から未来に流れるものじゃなくて、あらゆる時間軸が同時に存在する考え方だから、そのため大切な人を失う概念がない。たとえ誰かを失ったとしても、それはあくまでも特定の時間軸における出来事に過ぎず、彼らにとっては、大切な人といる時間軸も同時に存在しているわけです。

その通りですね。彼らの文字が円相になっているのも、その考え方を反映していますね。

この映画自体の構成も、最初と終わりで繋がるようになっています。冒頭はルイーズが娘さんを育てているシーンが描かれ、ラストにはイアンと結ばれる。続けてみると冒頭と繋がるんです。改めて観ると、映画自体が巨大な輪になっている。

それは面白い!

原作も読んだんです。短編小説でしたね。2、30ページぐらいだったかな。映画の方が分かりやすく描いていて、途中で中国の将軍が戦争を始めそうになる挿話はなくて、ただ文字を解読する描写が延々と続いていて難しかった。宇宙人が何のために来たのかも明かされないまま原作は終わっちゃうんです。
ルイーズが後々娘を授かるけど、原作だと事故で亡くしちゃうのを受け入れる展開になっています。

映画版って宇宙人たちは人類との対立を避けるために来たんでしたよね。

劇中では、ヘクタボットたちが遥か未来に人類に救われるので、今人類を絶滅させないために助けに来たという説明がありました。それがどういう形で人類が彼らを助けることになるかは分かんない。頭がこんがらがるけどね。
ルイーズが宇宙人の文字を解読するのは、未来でルイーズが宇宙人の文字の解読本を出版している記憶を引っ張り出して、文字を理解します。中国の将軍に電話かけたいのに電話番号が分からない時は、未来の自分が将軍に会っていることを知って、その記憶から電話番号を思い出します。

不思議な感覚ですよね。

ルイーズが彼らと接触したことで、彼らと同じように時間を超越した存在になっちゃった。

時間が何かって考えてしまうよね。時間の流れが自分たちの感じているものとは違います。

ヘプタポッドがタコみたいな形をして胴体が伸びて360度回転する。前後の概念すらないんじゃないんですかね。だから彼らにとっては時間を行ったり来たりするのが当たり前のことなのでしょう。

形態が思想に影響を与えるのは、興味深いですね。手の形もそうですし。

なんで宇宙人の造形ってタコ形になりがちなんでしょ?

最初のデザインの影響があるような気がします。(ブラジル人画家ヘンリケ・アルヴィム・コレアが制作した1906年の「宇宙戦争」の挿絵 右図)

娘の名前も回文のような名前でしたよね。アンナはアルファベットだと逆から読んでもANNAになります。アンナちゃんが粘土で遊ぶシーンで、粘土がヘプタポッドの形になっているのは、彼女も同じ能力を得て、ビジョンが見えたかなって思った。「未知との遭遇」では宇宙人と意思疎通を図っていました。

それにしても、宇宙人が接触してきた時に、どうやったら自分の国が先に宇宙人から武器を得るかという発想になってしまうのが情けない。

彼らの武器は言葉のことやけど、それを本当の兵器と勘違いしちゃってね。

言葉が最終兵器なのはその通りなんやけど。
今まで宇宙人が来たから言語学者を呼ぼうっていう映画がなかったよね。

ですよね。友好的な宇宙人を描いた作品はいろいろありますけど。ここまで意思疎通を細かく描いた作品はないですよね。

音を発していたから言葉やと思って録音したんですかね。

変なノイズ。あれは意味なかったんですけど。

音声でコミュニケーションを取ろうとしていたけども理解できなかったんで、こちらから文字を見せて反応を見ることにしたら、相手も文字しらしきものを出してきました。

墨汁で書いたみたいな文字をどうやって解読したのかな。

部分的に解読していたね。ここはこういう意味だと。

そう。「逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ」って、彼らが仕掛けられた爆弾を知っていたんやったら、早く警告してもいいのにあんなぎりぎりで。。。

二体出てきて、一体は途中で亡くなってしまいました。

自分が死ぬのは分かっていたのに、死の概念自体が無いんかな。

全てが分かっていることやね

仲間の死を悲しんだりしないし、感情はあんま無いのかな。

時間の経過がなくなったら感情がなくなるってことですか。

そういうことだね。ちょっとやだね

やですね。

二体に「アボット、コステロ」って名前をつけます。

コメディアンでしたっけ。

有名な昔のコメディアンで映画にも出ていました。太っちょっとのっぽのコンビです。

解説サイトを見ると表意文字は、ひらがな、カタカナで、表形文字が漢字などを指すものです。

それは日本らしい解釈だけどもね。
漢字の部分を取り出して、それを一つの音として、使ったのが仮名です。

アメリカはアルファベットしかないわけですからね。表意文字しかないってことですね。表形とか表意を超越した文字をへクタボットたちは使っています。

漢字も一文字にいろんな意味が込められて、中に物語があったりします。白川静教授は独学で、漢字の起こりを調べた第一人者で教授が編んだ「字訓」で(高価なので古書で買ったので)よく調べるんですけど、やっぱり面白い。そんな意味があったかと驚かされます。

漢字の成り立ちってことですか。

成り立ちと元々の意味が神様に関わっていることが多いです。部首が生贄だったり斧や捧げ物の入れ物だったり、今の言葉の意味にどう変容してきたのかが分かります。

僕たちからしたらヘプタポッドの文字って、なんじゃこりゃって感じですけど。もしかしたらアメリカの人が日本語の漢字を見て感じる印象と同じなのかもしれません。

似ているかもしれないね。相手の言葉や文字を理解するって大事なことですよね。世界中で言語がこれだけあるのが、不思議だしね。

バベルの塔ですよね。あんなん作ったから分断されるような世界になっちゃったんですよ。

コミュニケーションを取らせないという罰。
聖書も「始め言葉ありき」から始まりますね。言葉は一番最初です。イタリアのデザイナー・エットレ・ソットサスは、デザインは哲学と言葉で成りたつと言っています。(松岡正剛「デザイン知」)

確かにそれがなかったらデザインが成立しない。

改めて言葉の重要性を認識させられますね。

「2001年宇宙の旅(1968)」で、冒頭、荒野に集う類人猿たちの前にモノリスの石版が降りてきて、それに触れたことで猿が進化する描写がありました。あれと似ているかもしれない。「ばかうけ」も人間を一歩進化させるためのもんですかね。

「ばかうけ」はモノリスやったんやね。

モノリスを投影しているかもしれないですね。

言葉が生まれる過程は誰も知らないです。

そうそう。外国との最初のコミュニケーションも映画のように困難だったかな。

ロゼッタストーンとか文字を解読する人もすごいですよね。

長い時間かけてちょっとずつ解明していくからね、ここに納税記録の単位が書かれているとかね。

ゼロの状態からの解読はめっちゃ難しそうです。

高知のジョン萬次󠄁郞(中濱萬次󠄁郞)が漂流してアメリカに渡った時も、どんな文化的な衝撃があったか。

すごいですよね。

後に英和辞典を作っちゃうんやからね。

こういう先駆者がいるおかげで今の社会があるわけですよね。

ロシアに行った人(大黒屋光太夫)もいるしね。当時いろんな文化的な衝撃があっちこっちで起きています。相手の方がこちらよりも文明が高い時が脅威なんやろね。宇宙から来た相手なら、その存在自体が文明の差だからね。

宇宙船に入る時にエレベーターが上がって行くと重力が逆転する。あれば面白いですよね。

重力を操作できる。そこに科学の差があります。

ヴィルヌーヴ監督はこの作品以降、SF映画のイメージが強くなるんかな。

「ブレードランナー 2049」。あれも難しかったです。

「デューン 砂の惑星 PART2」は3作目も制作が決定したみたいです。続きそうなところで終わりましたね。原作はもっと長い物語です。

昔から映像化は難しいって言われていました。

元々チリのアレハンドロ・ホドロフスキーが映画化しようとしたけど頓挫した。デューンに出てくる宇宙船のデザインを書き起こしたけど使われることなく終わって、デビッド・リンチ監督が代わりに映画化したけどうまくいかなかった。ヴィルヌーヴ監督の作品は前評判を覆して、大ヒットに結びついた。

原作が喚起するイメージを映像が越えられなかった時代がありました。でも今はVFXがあるからできちゃうんだな

Eくん

年間 120本以上を劇場で鑑賞する豪傑。「ジュラシック・ワールド」とポール・バーホーヘン監督「ロボコップ(1987)」で映画に目覚める。期待の若者。

キネ娘さん

卒業論文のために映画の観客について研究したことも。ハートフルな作品からホラーまで守備範囲が広い。グレーテスト・シネマ・ウーマンである。

検分役

映画と映画音楽マニア。所有サントラは2000タイトルまで数えたが、以後更新中。洋画は『ブルーベルベット』(86)を劇場で10回。邦画は『ひとくず』(19)を劇場で80回。好きな映画はとことん追う。

夕暮係

小3の年に「黒ひげ大旋風(1968)」で劇場デビュー。開演に照明が消え気分が悪くなり退場。初鑑賞は約3分。忘却名人。

エイミー・アダムス
ジェレミー・レナー
あなたの人生の物語

原作「あなたの人生の物語」はテッド・チャン著SF短編集「あなたの人生の物語」の中の1編。

Henrique Alvim Corrêa 3

エンリケ・アルヴィン・コレアはブラジルで生まれパリで絵画を学ぶ。H・G・ウェルズが1897年に発表した小説「宇宙戦争」がフランス語で出版された時に挿絵が採用された。上図は、火星人が搭乗している巨大戦闘機械「トライポッド」と火星人。このイメージが現在まで火星人の姿として定着する。

アボットとコステロは、ヴォードヴィル芸人から1940年代には映画界に進出。凸凹コンビシリーズが人気となった。
字訓

白川静は漢文学者で立命館大学名誉教授。古代漢字研究の第一人者である。

松岡正剛が2000年からWEB上で連載していた書物案内「千夜千冊」(1851夜を達成)の中からデザイン思想に関する書評を再編集したのが「デザイン知」。エットーレ・ソットサスの言葉は、第4章 1014夜 ジャン・バーニー『エットーレ・ソットサス』から。

映画 「バタフライ・エフェクト」 時間を飼い慣らすことはできない

監督・脚本:エリック・ブレス、J・マッキー・グラバー

〈Story〉
少年エヴァンは、時折、短時間の記憶を喪失し、心理療法士の勧めで治療のために日記を書き始める。
大学生になり、日記を読み返すと、その日記に書かれている過去の時点に戻れる能力があることに気づく。
エヴァンは自分のせいで幼馴染のケイリーの人生を狂わせたことを知り、少年時代に戻り運命を変えようと考える。ケイリーの父への性的虐待を止めることに成功するが、ケイリーの父はケイリーの兄トミーを虐待する。
トミーは素行が荒れ、エヴァンの犬を殺して、刑務所に行くことになるのだった。。。

「バタフライ・エフェクト(2005)」は2と3があったよね。何か観てしまいます。

結末が違うディレクターズカット版がセル用のDVDにだけ収録されています。

それはめっちゃ貴重ですね。

時間を題材にした映画で検索すると「バタフライ・エフェクト」が必ず出てくるんですよ。私たちが三人とも観ているぐらいだから知名度が高い。

そういう類では先駆作品やね。前だと「時をかける少女(2006)」が代表格でした。

「バタフライ・エフェクト」の冒頭で、蝶々の羽ばたき一つでも地球の裏側では大きな竜巻が起こることが説明される。些細な出来事が、より大きな出来事を引き起こすという概念。

北京で蝶が羽ばたいたらカリブで嵐が起きる。

カオス理論は、複雑系における予測不可能な現象を扱う学問で「ジュラシック・パーク(1990)」のマルコム博士(ジェフ・ゴールドブラム)がカオス理論学者で劇中でも言及されていました。
「バタフライ・エフェクト」のお話は幼少期に意識が飛ぶ病気に悩まされていた大学生エヴァンが主人公。意識が飛ぶ間のことを覚えていない。お医者さんの勧めで、日記をつけていて13歳の出来事を最後に7年間意識が飛ぶことはなくなって大学生になる。ある日、彼はひょんなことからタイムリープができる能力があることを知って、愛する人や友人の運命を変えるために何度も行ったり来たりする話。

「パスト ライブス/再会(2024)」じゃないけど、最終的に選択をしなければいけない。
クオリティの高いエンディングやったね。

過去と未来をテンポよく行き来する様が面白かったです。幼少期に悩まされていた意識が飛ぶのも、未来の自分がタイムリープしてきたことが原因で意識が飛んでいた。それが、後々明かされる。

最後は爆弾事件がありましたね。愛犬も出てきて、最初は恋人のためだったかな。

エヴァンの時間軸で言えば、7歳の時にケイリーっていう思いを馳せる女の子がいた。その子の家に遊びに行ったら、ケイリーの父親が虐待をしている。その後13歳の時に、ケイリーの兄トミーがトラブルメーカーで、エヴァンが飼っていた犬を袋に入れて火をつけようとして、それを止めようとしたケイリーが木の板で顔に傷を負っちゃう。さらに、仲間たちと民家のポストの中にダイナマイトを入れて、いたずらしていたら、たまたまポストを覗いたお母さんと赤ん坊が巻き込まれて死亡。この事件が原因で仲間のレニーは頭を抱え、引きこもりになります。
20歳になってエヴァンは大学生として暮らしている。ケイリーは父親の虐待とトラウマが積もって、ふさぎがちの暗い性格で、トミーはチンピラのまま、レニーは家にこもって趣味のプラモデルを作っている。
エヴァンがケイリーと再会すると、ケイリーは過去のことを思い出して自殺しちゃう。エヴァンはケイリーを救うために、過去に戻る。

4人が幼馴染みやったね。

エヴァンがタイムリープしてケイリーが虐待される現場に戻るんです。父親に「虐待するな」って阻止する。すると、歴史が変わって、ケイリーは明るい性格になって、大学ではエヴァンと付き合っている世界線になった。
その後ケイリーの兄トミーが妹に手を出したエヴァンを許さんってやってくるんです。取っ組み合いの末、エヴァンがトミーを殺して刑務所に収監される。刑務所の中でいろいろありつつ何とか13歳の時に戻って、エヴァンのペットの犬をトミーが焼き殺した時にケイリーが木の板でぶたれて顔に傷を負っちゃう。レニーがトミーを殺しますが、それがトラウマで精神病院に入ることになるんですよ。

激しいです。こんな暗い話やったっけ。

子供が虐待を受けたり、人が殺されたりするシーンがある。

当時は生生しくて、何回も過去に戻るのが斬新でした。

ほんの些細な出来事で過去を変えると、ケイリーの境遇が変化します。
大学でエヴァンとくっついているかと思えば、塞ぎがちな性格になったり、レストランでウェイトレスだったり、売春婦だったり、エヴァンじゃなくてレニーとくっついていたりとか、過去を変えてみてもみんなが幸せにならないんですよ。
エヴァンは戻れば戻るほど脳に負担がかかって、自身も命の危機に瀕します。

誰かが犠牲になるよね。

話が戻りますけどエヴァンがトミーを殺して、刑務所に収監された時はアメリカの刑務所を借りて収監者たちをエキストラとして撮影したとか。
刑務所内でエヴァンはいじめに遭う。タイムリープのトリガーである日記を取り上げられる。その中でカルロスだけが親切にしてくれる、彼はキリスト教の信徒でした。エヴァンはカルロスに
「俺の掌に今から聖痕が現れる」と言う。エヴァンはノートの切れ端を見て、7歳の時に戻って、両手の掌にピンを突き刺して傷をつける。そして20歳の時に戻り、刑務所でエヴァンの両手の傷跡を見たカルロスがキリストの再来だと認めて協力するエピソードがある。
考えたら、過去に戻って両手を傷つけているから刑務所に収容される前から傷はあったはずです。

歴史は変わっていると。
過去に行った時点で、刑務所に入らない選択をできたかもしれない。

たまたま持っていたノートの切れ離しが、7歳の出来事を書いた日記だったため、7歳の時点にしか戻れなかった。当時書いてあった日記とかを読んでのタイムリープができるんですよ。何もないと時間の跳躍はできない。別に日記じゃなくても当時の写真とか映像とかでもタイムリープができる。

着地点を決める照準器ですね。

明かされるのが、エヴァンのお父さんも同じタイムリープの症状に悩まされていて、精神病院に入院した描写がある。一家の男の人は同じ症状を患っていた。

それでお母さんが止めようとしていたのか。

次第に気づくんですよ。
精神病院に入院しているお父さんにエヴァンが会いに行って、面会中に意識が飛んで、気づいたらお父さんがエヴァンの首を絞めていて、それはエヴァンが7歳の自分に乗り移っていた。エヴァンのタイムリープを知ったお父さんがそれを止めようとして首を絞めていたことが明かされる。

殺そうとした。

負の連鎖を断ち切るため。お父さんがタイムリープを繰り返した結果、精神病院に入院した。
果たして、この状態からエヴァンはどのような方法を採るのか、という物語です。
ちなみに最後にオアシスの曲「#Crying your hurt out」が流れる。「your hurt out」は、「思う存分」の意味で、直訳すると、「思う存分泣くのをやめろ」。歌詞の和訳は「過去を振り返るんじゃなくても、泣くんじゃない、だから前を向いて生きろ」となる。この映画にあった曲で良かった。

もしかしたらこういうストーリーの元は映画の影響かもしれないって思ったんです。
映画って時制を切り貼りするんですよね。(「工場の出口(1895)」)

行ったり来たりするってことですか。

そうそうそう。シーン切り貼りで、アケフセができちゃうのが映画で、そんなところからこういう物語のモデルかも。

かもですね

着想がそこにあった。そうですね。昔の人は考えてなかったかもしれない。一直線に進む考え方しかなかったら

時間を題材にしたSF映画を分類してみました。インターネットで調べながら判断したので、私見として聞いてください。
まず(1)タイムトラベルもの、もしくはタイムスリップの代表的な作品は、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とか、「ターミネーター」。タイムトラベルは肉体的な移動で、よくあるのが過去の自分とばったり会っちゃったりします。
(2)「バタフライ・エフェクト」は厳密にはタイムリープ。タイムリープは自分の意識だけが過去の自分に飛ぶ。例えば、「時をかける少女」、最近だと「東京リベンジャーズ」とか。

文学の古典的名作「夏への扉」がタイムトラベル。

「スターシップ・トゥルーパーズ」の原作と同じロバートAハインラインの作品ですね。「夏への扉」は最近日本でも映画化してLiSAが主題歌を担当しました。
最近の日本の漫画とかタイムリープものが多い気がします。タイムトラベルでは最近「ドラえもん」くらい。
話が戻りますけど、(3)タイムループもよくありますよね。今まで取り上げた作品で「パームスプリングス」とか、「ハッピーデスデイ」。遡ったら「恋はデジャブ」とかね、あれは自分の能力とか道具で過去に戻るのではなく、外的な要因で主人公がトラブルに巻き込まれるパターンですけどそれが原因で同じ時間を何度も繰り返す。

「サマー・タイムマシン・ブルース」はタイムトラベルやな。

あれはタイムマシンに乗って過去に行く。

そして自分に会わないように苦労します。

過去の自分に会うと未来が変わってしまう設定が面白いですね。

物理学者が言っていたのは、二つ考え方があって、過去に戻って出来事が変化していくのを1本の時間と考える場合と、もう一つは、過去に行った時点で歴史が変わるので、パラレルになると考えます。元の歴史はそのまま残りながら、新しい歴史が並行して始まります。

枝わかれして。

パラレルになっちゃう。その2パターンが科学者の机上で考えられる。

「アベンジャーズ/エンドゲーム」は、サノスを倒すためにアベンジャーズが過去に戻ってインフィニティストーンを取ってきます。
劇中でアントマンが
「過去の世界に行って、タイムストーンを取ったら、歴史が変わっちゃうんじゃないか」って指摘するんです。ブルース・バナーが
「タイムストーンを取り戻しても、今の歴史は元通りのままだ」と解説する。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」や「ターミネーター」とは異なる設定です。作品によっても捉え方が違うのでややこしい。

作品ごとにタイムトラベルのルールがあるよね。

他に(4)時間逆行もある。未来から過去の一点に飛ぶんじゃなくて、その過程を描いている。「テネット」みたいに人が正反対の動きをして描いていたり。昔のクリストファー・リーブ主演の「スーパーマン」では終盤でスーパーマンの恋人が亡くなっちゃう。それでスーパーマンが嘆き悲しんで、宇宙空間に飛び出す。

時間を戻すためですね。

そう。地球って自転しているから、反対方向にぐるぐる回って時間を戻して、割れていたダムが元通りになって恋人も助かる設定。

小学生みたいな考え方をすると、タイムマシーンの実現が難しいのは、地球は自転しながら公転をしているから、座標を追いかけるのが難しい。

その通り。

宇宙空間に移動してしまう可能性が高いです。

座標が変わらないまま移送するからってことですか?

コンクリートの中とかに行っちゃうこともあります。

ハハハ

だから、もしかしたらタイムマシンは成功しているかもしれない。

どうしてですか。

使用した人がみんな宇宙空間だったり海の中だったりと、みんな座標の調整ができていないだけかも。

だから本当は実現しているけど誰も知らない。

タイムスリップしようと思うこと自体が、過去に逆らっています。

時間を題材にしたSF映画は(1)タイムトラベル、(2)タイムリープ、(3)タイムループと(4)時間逆行(5)その他の5つかなと僕は思いました。
余談ですけど「フラッシュ」は早く移動できる能力を持っている。我々にしたら、ほとんど止まった時間の中をフラッシュは動く。さらに光の速さを追い越しちゃって時間を超越しちゃう。「ジャスティス・リーグ(2017)」で、終盤で悪者にスーパーヒーローたちが倒され、フラッシュが時を逆行して倒される直前に戻してみんなを救うシーンがある、タイムリープになるんですかね。

そこには自分がいなかった。

自分は常に1人。別の映画の「ザ・フラッシュ」でも光の速さを追い越しちゃって、時を遡っちゃう。別世界に飛んじゃってもう一つの世界の自分と鉢合わせてする展開だからタイムトラベル。

理屈はそうかって思いつつ、どこへ向いて走ってんのかなって。

物理的に動いたら戻っているって。

そうそう、過去のタイミングに来ても、その中で走って時間を逆行する。タイムトラベルでもあり、タイムリープでもあり、時間逆行者でもある、特殊なキャラクター。

移動もしているしね。早く走ったらだんだん映像がスローになるのも面白いですね。

壊れたビルとか周りが元通りになる逆再生の中を、1人だけ走っている。

となると「テネット」パターン。

そう「テネット」パターンでもある。時間逆行で、ジャンル分けが難しくなる。

途中で待ち構えている人もいたよ。

フフフ、待ち構えている?

時間の中を走っているのを見越して、途中でぱっと出てきてパラレルワールドに行っちゃう。

面白いですね。

「ザ・フラッシュ」はDCの知識なくても面白い。

SF映画は物語のルールで科学を試しています。

「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち(2017)」は、ペレグリン(エヴァ・グリーン)がタイムループの能力を持っている。

リープなのかな?

リープってとらえ方もあるし、同じ日を繰り返しているからタイムループかな。あくまでこれは私見で作品によっては明確な分類が難しい場合もあります。

私見の分類だからこそ面白いんでね。

そんなにジャンルがあったとは。

そういう分け方もできる。

「君の名は。(2016)」は滝くんが現在で、四葉が過去。意識が入れ替わっているだけじゃなくて、時代も違うし、タイムリープの応用編でも言うべきか。

「メン・イン・ブラック3(2012)」はタイムスリップします。

そうやったね。ウィル・スミスの相棒がトミー・リー・ジョーンズ。トミー・リー・ジョーンズの若かりし頃演じたのが ジョシュ・ブローリン。「アベンジャーズ(2012)」ではサノス役。「デッドプール2(2018)」では「ターミネーター(1885)」みたいに未来から過去を変えるためにやってくる設定でした。「ある日どこかで(1981)」はタイムトラベルかな。

素晴らしい映画でしたね。スーパーマン役の人だよね、

クリストファー・リーブ。
必ずしも時間が題材のSF映画だからといって、主人公が過去と未来を行ったり来たりするだけじゃないんですよ、「マイノリティ・リポート(2002)」はトム・クルーズが未来の警官役で、犯罪を予知する機械で犯罪者が事前に特定されるという設定。例えば、Aがこの日に殺人を犯すと分かって、トム・クルーズは阻止するためにAを見張る。

まだ犯罪が起きていないのに。

予知タイプ。

「インターステラー(2014)」は主人公クーパー(マシュー・マコノヒー)が4次元空間に行って、過去、現在、未来の時間を超越した場所からどの時間にも移動できるようなる。ジャンル分けにするとその他に当てはまるかな。「2001年宇宙の旅(1968)」も最終的に主人公の宇宙飛行士がモノリスに遭遇して、時間を超越した巨大な赤ちゃんが宇宙空間に出現して終わる。

言葉にしたら想像を絶するストーリーですね。

エイミー・スマート

「夏への扉は」ロバート・A・ハインラインが1956年に発表したSF小説。構想の発端は、コロラドの冬、猫が外に出て行かないのを見たロバートの妻ジニーが言った「猫は夏への扉を探しているのね」という一言から。

検分役の音楽噺 ♫

今年の1月に個人的に最も敬愛する監督、デイヴィッド・リンチが亡くなったのはショックでしたが、同じく1月にはフランス人監督、ヤノット・シュワルツも亡くなっています。
作品数としてはあまり多くない方ですが、あの大ヒット作『ジョーズ』の続編『ジョーズ2』(78)、クリストファー・リーブがヒーローを演じた『スーパーマン』の姉妹編『スーパーガール』(84)、そのプロデューサーの元で監督した『サンタクロース』(85)といった作品が代表作でしょうか。
その後はTVドラマの監督をされていたようです。

作品自体はどちらかというと二番煎じのようなラインナップですが、いずれもプロデューサーの恩恵でしょうか、音楽担当は『ジョーズ2』はジョン・ウィリアムズ、『スーパーガール』はジェリー・ゴールドスミス、『サンタクロース』はヘンリー・マンシーニで主題歌はシーナ・イーストンと映画音楽ファンとしても注目すべき作品が並んでいます。

そのヤノット・シュワルツの最高傑作と言われているのが1980年の映画『ある日どこかで』なんですね。
今回、「時間を題材にしたSF映画」というところで挙げられている作品です。
クリストファー・リーブ演じる主人公が古い写真の女性(ジェーン・シーモア)に魅せられて、その熱い想いが高じた結果、 なんと、その女性の時代へタイムスリップするというSFラブストーリーの傑作です。
この映画、公開当時はさほど話題にならなかったのが、ビデオの時代になってソフトを観た人々の間で話題になり熱烈なファンも増え、数年前には「午前十時の映画祭」で日本でもリバイバル上映された作品でもあります。

劇中ではラフマニノフの作品が重要な曲として使われていますが、それ以上に素晴らしいのがジョン・バリーによるオリジナルスコアなのです。
本作のテーマ曲は、バリーの作品でも一、二を争う人気曲で、サントラも何度もリリースされるほど。
僕も映画、音楽ともども大好きな作品ですので、もし未見の方がおられれば、ぜひご覧いただきたい逸品です。
本作を観ると、つくづくヤノット・シュワルツは音楽に恵まれているなぁ、と実感しますねぇ。

(対話月日:2024年10月10日)