お家シネマで癒されましょう

第28夜「シネマはホテルで急転(ツイスト)する」Side A

今宵のテーマはホテル。映画 の舞台として重要なモチーフですね。

映画 をこよなく愛する素人のおしゃべりです。
皆様の観たい映画がひとつでも見つかれば嬉しいかぎりです。

「グランド・ブダペスト・ホテル」 ウェス・アンダーソンのマキシマリズム

監督・脚本:ウェス・アンダーソン
原案:ウェス・アンダーソン、ヒューゴ・ギネス

〈Story〉
ズブロフカ共和国にある国民的作家の墓の前で彼の著作『グランド・ブダペスト・ホテル』を読み始める少女がいた。1968年に若き作家が、グランド・ブダペスト・ホテルのオーナーゼロ・ムスタファと出会い聞いた話が小説の物語だった。
1932年、移民で無一文の少年ゼロはグランド・ブダペスト・ホテルのボーイとして働き始める。このホテルはヨーロッパ各国から富裕層が集まる名門ホテルであり、コンシェルジュのグスタヴによって仕切られていた。ゼロはグスタヴの下で仕事を学び、菓子職人のアガサと付き合うようになる。
ある日、ホテルの常連客で大富豪の伯爵夫人マダム・Dが、グスタヴにルッツの自邸まで一緒に帰って欲しいと頼む。グスタヴは、これを断るが、約1ヶ月後に彼女が死亡する。グスタヴはゼロを伴い、急ぎ彼女の屋敷であるルッツ城へと列車で向かう。戦争が間近で鉄道が軍の検問に会い、市民権がないゼロは捕まりそうになる。
マダムには莫大な遺産があり、その大半は息子ドミトリーら息子・娘たちに相続されるが、絵画「少年と林檎」はグスタヴに遺贈されると遺言されていた。これにドミトリーは反対し、揉み合いになった末、彼の側近ジョプリングがグスタヴを殴りつける。その夜、グスタヴは執事セルジュの協力を得て、「少年と林檎」を持ち去る。
帰りの列車の中で、グスタヴはゼロに協力の見返りとして自分が死んだら遺産をすべて遺贈するという遺言書を作成する。
ホテルに帰るとグスタヴはマダム殺人容疑で逮捕され、拘留所に収容される。すべてはドミトリーの陰謀であり、ジョプリングを使って自身に不都合な関係者を次々に殺害していく。
グスタヴは無実を証明するために脱獄を計画するのだった。

グランド・ブダペスト・ホテル

グランド・ブダペスト・ホテル(2014)」はどうでした?

ウェス・アンダーソンらしいって思いましたね。

初めて観た時は、独特の世界観と色使いに圧倒された。

階層があって、入れ子型回想でもある。喜劇的な反戦映画で面白いです。

映像はかわいいんです。描いているものは遺産相続に巻き込まれたりとか、ナチスっぽいのが出てきたりとダークですよ。メインのお話が1932年。
老人になったロビーボーイ・ゼロから作家が話を聞いたのが1968年。
その話をもとに本を書いたのが1985年。
その本を読んでいるのが、冒頭で描かれている名もなき女の子、それが現在。
その四つの時間軸。

今回の「グランド・ブダペスト・ホテル」は2回目ということもあって、入れ子だと思って見ると、分かりやすかった。

年代によって画角も変えています。スコープとか、スタンダードサイズとか。(1932年:1.37対1アカデミー比率、1968年:2.35対1 アカデミー比、現在: 1.85対1アメリカンヴィスタサイズ)。
アステロイド・シティ(2022)」と「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊(2021)」も一緒です。

私も「フレンチ・ディスパッチ」を先に観たんで、「グランド・ブダペスト・ホテル」が分かりやすい感じがしました。

ちゃんと物語になっているよね。

オムニバスみたいです。
あとは構図作り。画面の真ん中にカメラ目線で立たして、左右対称にして周りに小道具とかをちりばめる。

僕は人の動きが気になったね。
カメラを固定して、人が左から右へ移動して、奥に行くと右から左に動くとかね。

X軸Y軸で動いているんです。

奥から手前に来る。梯子のシーンは下に人が動く。ずっと決まった動かし方をしている。

計算しているんでしょう。

カメラが左右にパンニングする時は、きゅっと動く。

キューブリックっぽくないですか?

人物の動きを一定に決めて撮る人ってあまりいないかな。紙芝居っぽいというか、物語世界に閉じ込める感じ。

1枚の絵みたいです。
どこを切り取っても様になる。

後ろに掛かっている絵もドーンとイノシシとか、マンモスとか象徴的。

分かりやすい絵が収まっていますよね。

小窓の向こうに人がいる構図とか。

はいはい、よくありますね。

斜めから撮るカット がないですもんね。

隅から隅まで計算されている。

ここまで監督の色が出ている作品も珍しくないですか。一発でわかる。映画が始まった瞬間に分かっちゃいます。

画面の色使いで分かる。

建物ね。ホテルの全景とか、雑誌社の全景とか。。。

ホテルはミニチュアで作っています。中はドイツの元百貨店(ゲルリッツ百貨店)を利用している。

絨毯が真っ赤で、エレベーターの中も真っ赤。従業員の制服はパープル。

紫の制服があるのかって。。。

ホテルの外観はピンク。

全体的にかわいらしい感じでしたね。

ケーキを運んでくる車がピンクのミニカーみたいでかわいかった。
監督はヨーロッパの文化が好きで一時期パリに住んでいた。どの作品にもそんなフランスの文化の要素があります。

背景は雪山で街全体はアイボリーですよね。
世界をつくるように緻密な設計をして、アンダーソン監督が細部まで設計して作り上げていく。

思わず自分も行きたくなっちゃうような世界がいいんです。カラフルなおもちゃみたいな世界観。正直、本筋が何を言っているのか分かんなくても雰囲気だけ楽しめちゃうような魅力があると思います。

アンダーソン監督は生まれはテキサスで、子供の頃は建築家になりたかったらしいですね。

だからきちっとしているんですね。

そんな気がします。設計図や図面のコレクターだったそうです。性格がわかりやすい。

登場人物は大抵、ほとんど無表情で早口で。そこがまたギャップがあって面白い。

エレベーターボーイのボタンの押し方がめっちゃ好きでしたね。
セリフも小説っぽい印象があります。口語じゃないような堅苦しい感じかなって思います。

雪山でウィレム・デフォーが逃げるシーン。スキーでキューっと行って、兵隊さんに見つかって、追われているのに黙祷をささげる。あれがまたかわいい。

僕はウィレム・デフォー に目撃者が追い詰められて、美術館に逃げ込むシーンかな。展示室の中を追いかけられて、目撃者が裏口から出ようとしたところ、ドアを閉められて指がパラパラって落ちる。

ちぎれていましたね。

目撃者はジェフ・ゴールドブラムですよね。「ジュラシック・パーク(1993)」に出ている人。

ハエ男?

そう。「ザ・フライ(1986)」の人です。

名前を知らないんですけど、マダム役の女性は?

ティルダ・スウィントン。

実はオーナーやった人ね。

ホテルの所有者で最後に遺産相続をする。

遺産の中にホテルが入っていたんですね。
最後まで分からない仕掛けでした。

レイフ・ファインズが好きですね。かっこいいと可愛げのあるおじちゃんって感じで。。。

グスタヴ役はまっすぐでしたよね。間違えたと思ったらすぐ謝る。

刑務所に入ったら囚人をボコるようなやんちゃなところがあって。。。
冤罪で刑務所に入れられるって、なかなかハードな展開ですけど、アンダーソンにかかると不思議とシュールな世界になる。

脱獄するシーンもアニメチックに撮っています。

脱獄囚たちがバスの運転手をボコボコにしている。

意外と血が流れている。

早く逃げないといけない時に長話をするよね。

全員
ははは。

グスタヴは詩が好きなんですね。

食事の前に朗読する。
鍵の秘密結社に脱獄を助けてもらう時、コンシェルジュが順番に電話で伝言する。「えっビル・マーレイや」って。 アンダーソン組って知らなかった。

鍵の秘密結社って実際にあるそうです。コンシェルジュの組合。脱獄も幇助しているかどうか分かんない。

あれがこの物語の肝やね。あんな後ろ盾があるんやね。

僕はアンダーソン作品を全部観ているんですよ。
アンソニーのハッピー・モーテル(1996)」、「天才マックスの世界(1998)」。3作目からようやく日本でも劇場公開された。「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ(2001)」。僕が初めて見たのが「犬ヶ島(2018)」です。おすすめアニメーション。あと「ファンタスティック Mr.FOX(2009)」も可愛いくて。

やはり、ビル・マーレイがずっと出ていますね。

「アステロイド・シティ」は代わりにトム・ハンクスが出ています。
常連の人が出てくるのを探すのも楽しい。
おじいちゃんになったゼロ役、あれがF・マーリー・エイブラハム。「アマデウス(1984)」のサリエリ。

えー。そうなんか。
輪郭も独特な顔立ちやと思いながら見ていた。

1932年のパートで少年のゼロを演じている男の子(トニー・レヴォロリ)もウェス・アンダーソンの常連組です。スパイダーマンのフラッシュ、主人公のピーターをいじめる役。

オーディションでは役者が決まらずに、最後にアメリカで見つけてきた。
話の中ではあの子はユダヤ人みたいな気配があるよね。

列車の中で身分証を確認されていたのはそういうことですか?

村が襲われて戦災孤児でした。

グスタヴが捕まった後、軍隊がホテルを占領していた時に代わりにコンシェルジュを勤めたのが、オーウェン・ウィルソンで、その人はアンダーソンとは大学からの友人です。
1968年のパートですっかり人もいなくなった時にコンシェルジュを勤めていたのがジェイソン・シュワルツマン。この人も「天才マックスの世界(1998)」で主演を務めた。「ダージリン急行(2007)」のエイドリアン・ブロディとか見知った顔が出てくるだけで楽しいです。またウィレム・デフォーが出とるとか。

特徴的な顔やから。

ゼロと結ばれる女の子にはあざがついている。

メキシコの形。

そうそう。あれはシアーシャ・ローナン。
ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語(2015)」の主役や「レディ・バード(2017)」。マダムのホテルの召使の女の人がレア・セドゥ。「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(2021)」に出ていた。

囚人の一人がエンドロールで分かった。

ハーヴェイ・カイテル。

そうそう、観ている時は分からなかった。
マフィアの映画によく出ていますね。

オーウェン・ウィルソンも出ています。「フレンチ・ディスパッチ」の冒頭で自転車に乗って街中を紹介していたお兄ちゃん。

地下に落ちていく青年。

あとびっくりしたのが、ウェス・アンダーソンの日本人の親友で野村訓市。1968年のパートの数少ないお客さんの一人でした。
あの舞台のズブロッカ共和国が、あの後、公開されているとか。
劇中では語られてない部分もいろいろ設定を練り込んだそうです。

エンドロールにもこだわっていました。よくわからないコサックダンスのアニメ。

かわいいです。

チェンバロなのか、バラライカか、弦の多い楽器で演奏されたエンディング。

ロシア民謡っぽい。

物語と繋がりがあるのかも分からないですね。

第87回アカデミー賞で4部門、作曲賞、技術賞、メイクアップヘアスタイリング賞、衣装デザイン賞受賞。作品賞はノミネートされましたが、受賞は「バードマン」。

この作品がアンダーソン映画の起点だったかも知れないですね。

アンダーソン監督は「フレンチ・ディスパッチ」でも入れ子構造を使っています。架空の雑誌社の架空の記事を映像にしています。

「フレンチ・ディスパッチ」は章だてになっていますよね。刑務所の話とか、画家の話とか。雑誌が廃刊になる話なんで分かりやすいかな。

新作の「アステロイド・シティ」も入れ子構造。アメリカの片田舎で起こる話で、これも劇中劇ですよ。

「アステロイド・シティ」はアメリカの話ですか?

アメリカ。でも架空の街。舞台劇とその舞台の裏側、その二つを描いて後半にその境目が曖昧になって、哲学的になります。
エドワード・ノートンとエイドリアン・ブロディ、スカーレット・ヨハンソン。トム・ハンクスはウェス・アンダーソンに初参加です。

こうやってみたらどれも登場人物が多いよね。

撮影するたびにみんなで一緒のホテルに泊まって、毎晩ご飯とか懇親しているそうですよ。

毎日パーティーじゃないですか。

やっぱり撮影時に役者さんが楽しんでいる方が作品の満足度が高くなりますね。

Eくん

年間 120本以上を劇場で鑑賞する豪傑。「ジュラシック・ワールド」とポール・バーホーヘン監督「ロボコップ(1987)」で映画に目覚める。期待の若者。

サポさん

「ボヘミアン・ラプソディ」は10回以上鑑賞。そして、「ドラゴン×マッハ!」もお気に入り。主に洋画とアジアアクション映画に照準を合わせて、今日もシネマを巡る。

キネ娘さん

卒業論文のために映画の観客について研究したことも。ハートフルな作品からホラーまで守備範囲が広い。グレーテスト・シネマ・ウーマンである。

検分役

映画と映画音楽マニア。所有サントラは2000タイトルまで数えたが、以後更新中。洋画は『ブルーベルベット』(86)を劇場で10回。邦画は『ひとくず』(19)を劇場で80回。好きな映画はとことん追う。

夕暮係

小3の年に「黒ひげ大旋風(1968)」で劇場デビュー。開演に照明が消え気分が悪くなり退場。初鑑賞は約3分。忘却名人。

検分役の音楽噺 ♫

今回取り上げられている、『グランド・ブタペスト・ホテル』の監督ウェス・アンダーソン。
そして音楽はフランスの作曲家アレクサンドル・デスプラが担当しており、アンダーソン監督とは『ファンタスティック Mr.FOX』(09)以降、ずっとコラボを組んでおり、『グランド〜』で初のオスカーを受賞しました。
どこかで聴いたような、でも新鮮なイメージを、という監督の注文に、50人編成のバラライカ・オーケストラを駆使して、劇中に登場する架空の国ズブロフカの民族音楽「ズブロウキアン・ミュージック」を作り上げたデスプラの功績は、監督のみならず多くの人々を魅了した結果のオスカー受賞だったのだと思います。
個人的にもお気に入りの作曲家であり、『真珠の首飾りの少女』(03)や『ラスト、コーション』(07)のスコア(劇伴)を聴いた時、凄い作曲家が出てきた、と思いました。
文芸作品から、『ハリーポッターと死の秘宝』(10)や『GOZGILLA』(14)といった作品も手掛ける器用さも魅力の一つ。
イチオシなのは、2度目のオスカーを手にした『シェイプ・オブ・ウォーター』(17)でしょうか。

そんな彼が映画音楽作曲家を目指すきっかけが、ジョン・ウィリアムズ作曲による『スター・ウォーズ』(77)のスコアだったというエピソードを知って、至極納得しました。
多くの人々を映画音楽という世界に惹きつけた功労者ともいうべきジョン・ウィリアムズの、まさに後継者のような存在だと僕は思います。
現在の映画音楽界において、実力のある作曲家として、その名を挙げたいアレクサンドル・デスプラ。
次はどんなスコアを響かせてくれるのか、新作が発表される度に注目している作曲家です。

マーリー・エイブラハム

「ジョン・ウィック:コンセクエンス」 ホテルは安全な飛石か?

監督:チャド・スタエルスキ
脚本:シェイ・ハッテン、マイケル・フィンチ
原作・キャラクター創造:デレク・コルスタッド

〈Story〉
殺し屋のジョン・ウィックは前作で自分の結婚指輪を奪ったヨルダンの首領を見つけ出し射殺する。
その後、主席連合の新たな首領となったフランスのグラモン侯爵は先代首領を殺害したジョンへの報復として、ジョンの盟友ウィンストンが管理するニューヨーク・コンチネンタル・ホテルを廃業、爆破。ウィンストンを支配人から退任させ、コンシェルジュのシャロンを射殺する。
グラモンはジョンの旧友で盲目の暗殺者・ケインにジョンの抹殺を指示。
ジョンは旧友シマヅ・コウジが経営する大阪コンチネンタル・ホテルに潜伏。
グラモンはそれを察知し、ホテルの聖域指定を解除し、部隊とともにケインを派遣。
ジョンの高額の賞金を狙った殺し屋・Mr.ノーバディも参戦する。
シマヅはケインと対決することになる。
ジョンはNYに戻り、ウィンストンと対面し主席連合の掟である「1対1の決闘」をグラモンに申し込む。
決闘するためには、ジョンは主席連合のメンバーに戻る必要があった。

ジョン・ウィック-コンセクエンス

「ジョン・ウィック」のためのアクションチームがあるみたいで、格闘術が増えています。

ふふふ、鍛え上げられているんですね。
物語に犬がよく出てくるって聞きました。

1作目は、ジョン・ウィックの飼っていた犬がロシアンマフィアに殺されて、その復讐が大筋ですよ。

そうなんですか。動機がそれなんですね。

4作目に犬にまつわる展開もあります。
元々は世界的な暗殺組織のメンバーなんですよ。指令があって暗殺に行く世界がベースで、そこに他のストリームが絡んでいく。だんだん組織と対立していくんです。

1作目と2作目からストーリーは繋がっている?

ストーリーは繋がっていて、1作目はジョン・ウィックは引退しているんですよ。2作目で引き戻される。3作目は組織の守らないといけないルールを破ってしまう。そこで暗殺者集団からも追われることになって、世界各地で戦わないといけない。

そんなことになってるんですね。
全員が敵みたいな感じですね。

持っている銃だけでは追いつかないので、敵の銃も奪って戦うし、その場所にあるものも武器にして戦います。

4作目で終わるんですか?

「ジョン・ウィック・ゼロ」とかが出てくるかも。。。

そのパターンもたまにありますね。

ホテルがストーリーの要になっています。組織のホテルが世界に何ヶ所かあって、いつも使っているのが、ニューヨーク・コンチネンタル・ホテルで、そこでは戦ってはいけないというルールがあるんです。暗殺者が利用するホテルで、傷を癒したり、そこだけで通用するお金で、武器の調達ができます。

その暗殺組織のルールなんですね。

今作の舞台の一つが大阪のホテルで、ジョン・ウィックは3作目から追われています。

4作目でも追われている。

追われて組織からも除名されている存在です。
ジョン・ウィックの物語の類型 は、思いもよらない苦難を次々と乗り超えていく構成です。物語の典型となるのは「シンドバッドの冒険」とかですね。ある場所へ行くと、次の試練があって条件をクリアしないといけない、クリアするとまた試練がある。今回もジョンのせいで、ニューヨークのホテルのオーナーが責任を負わされる。冒頭で支配人が下ろされてホテルが廃業になるんです。それを指示しに来たのが、パリに住んでいる公爵と呼ばれる人で、公爵はジョンを始末するために刺客を送り込みます。それが目の見えない剣客ケインです。

それが ドニー・イェン。

ケイン(ドニー・イェン)はジョンとは元々仲間で一緒に仕事をしていた。仲間のもう一人がシマヅ(真田広之)です。シマヅは大阪コンチネンタル・ホテルを任されている。ジョンは、そこに匿われています。暗殺者集団とケインが大阪のホテルに送り込まれる。シマヅにジョンを引き渡せと迫るが、仲間なのでできないと断ったら、ホテルの非武装が解除されて戦いが始まる。

ホテルの中でもOKになっちゃうんですね。

今回は日本で戦うんで、槍とか刀とか弓がふんだんに出てくる。ホテルの中にいろんな武具が展示されていて、 それを使うという上手な展開です。今回はヌンチャクも使います。ドニー・イェンにもヌンチャク使って欲しいと思ったんですけど、ドニー・イェンは使わない。

そうなんだ。

実戦でのヌンチャクがリアルに描かれていて、ブルース・リーみたいに一撃では倒せないのがよく分かります。倒れた相手を何度も叩かないと動きを封じることができない。みんなが武術の達人で、防弾チョッキも着ているんで、撃っても死なないから果てしなく続くんですよね。
ジョンは最後にケインにやられそうになる。そこで助けてくれるのが、賞金稼ぎでジョンを狙っていた黒人の刺客で、賞金を独り占めしたいからジョンを逃がす。その後で真田広之とドニー・イェンの一騎打ち、ここが見どころです。
話の大筋は、ニューヨークの支配人が殺された後、ホテルのオーナーがジョンに言う。
「自由な身になりたいなら一つだけ方法がある」
ジョンがパリの公爵に1対1の決闘を申し込むこと。勝てば自由の身になれることを条件としてね。ジョンはもう組織のメンバーじゃないので、申し込みができないんですよ。どこかの組織のメンバーになるか、組織の代役として決闘を申し込む。どこの組織もなかなか受け入れてくれないので、ベルリンの組織と仲直りをして、そこの代理として決闘を申し込む、それが唯一の方法ということで、ジョンはベルリンに飛ぶ。
その組織に行くと、トップが代替わりしている。その娘さんがトップになっていて、お父さんがジョンのせいで殺されたことを恨んでいるんですよ。ジョンはそこで殺されそうになるんですけど、ジョンがお父さんの仇を取るからと提案する。娘さんは仇を取ってくれるんだったらと話を飲んで、ジョンは仇の首を取りに行く。
次々と難題を解決して最終的にパリに乗り込んで決闘を申し込む。決闘の結末はどうなるのか、ケインとの決着はどうなるのか、というのが物語の大筋です。

RPG的なストーリーですね。

大阪に行って大阪からベルリンに行く。

ニューヨーク、大阪、ベルリン、パリと場面が展開します。公爵がビル・スカルスガルド。

ペニー・ワイズ(「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。(2017)」に登場する殺人ピエロ)ですね。

そうです。 監督は公爵をその世界の神様みたいな光り輝く存在として表現をしたい。公爵が出てくる時は、背景にエッフェル塔があったり、ルーブル美術館の中で撮影したりと華やかです。それに対してジョンは服装もファッションも暗めで光 に対する暗黒の表現にしています。

公爵が若いですね、もっと老人のイメージをしていました。

本当のトップはまだその上にいますが、この映画で一切出てこないんです。今仕切っている公爵はずるくて、決闘を申し込まれても、代わりにケインに決闘をさせる。

じゃあ、侯爵は戦わないんですか?

「戦わない」と言う。ストリームには友情の話でもあって、シマヅとジョン、ジョンとケインの絆の話。ケインは敵対しているのではなくて、
「やらないと娘の命の保証はない」
と強請られて仕方なく引き受けるんです。

ストーリーを知らなかった。面白いですね。

監督がドニー・イェンの役を思いついたのは、日本を舞台にするので、座頭市のような人を登場させたいと思ったんですよ。

刀を使うんですか?

使います。

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー(2016)」で盲目の役をやっていましたね。

監督が要望したのは、座頭市の様によろけながら戦うスタイルだったけど、ドニーはスタイリッシュに戦わせてくれと。。。そして登場した盲目の剣術使いがかっこいいです。今回、武術指導には日本人(川本耕史)が参加していましたよ。

スタントマンも日本の女性が登場する。

女性を入れて欲しいと頼まれて、その人がコーディネートしたらしいです。この人が今まで担当したのが「るろうに剣心」シリーズの殺陣だそうです。

その女性の一人が「ベイビーわるきゅーれ(2021)」の主役でした。

あれって二人の女優が出ていましたよね。

伊澤彩織さん。
元々スタント経験はあるみたいで、「キングダム(2019)」「るろうに剣心(2012)」「G.I.ジョー(2009)」に出ていました。

世界一長い222段の階段落ちがあります。

誇っていいのかよくわからない。

大階段があるんですか?

最後の決闘の場所のサクレ・クール寺院に上がっていく階段です。約束の時間に来られなかったら暗殺対象になる。公爵はジョンに来させないように暗殺者を送り込むんですよ。最後の決戦場所へどうやってたどり着くのか。。。

「ジョン・ウィック」シリーズはシークエンスが続いていますよね。復習した方がいいかな。

3作目を観た時もそれまでを忘れていたけど、大丈夫。

忘れちゃいますよね。

ここ数年のVFXの進化にびっくりしますね。どうやって撮影しているのかわからない動きで、ずっとクライマックスを観ているみたいです。

最後まで激しい戦いが続いている。

観ている方はいいですけど、ジョンはずっと疲れますね。

大阪でロケをしたんですか?

大阪コンチネンタル・ホテルが難波の設定です。地下鉄のホームの景色も車両も違うし、別のところで撮っていますね。

大阪にキアヌが来たら大騒ぎです。

大阪のラーメン屋さんに、キアヌがお忍びで来たとか目撃情報がありますよ。親日家みたいです。

毎回これで終わりにしようって言っているみたいですよ。監督とキアヌが一緒に食事をしているときに、アイディアが閃いてしまうそうです。

次あれやろうかって。

で、ナプキンに書き出すと次回作ができる。

マトリックス・レザレクションズ(2021)」に「ジョン・ウィック」のチャド・スタエルスキ監督が出ているんです。トリニティの旦那さん役です。

(対話月日:2023年11月8日)