今宵のテーマは「お仕事」。
映画の中でも汗を流して働くのです。
映画 をこよなく愛する素人のおしゃべりです。
皆様がひとつでも観たくなれば嬉しいかぎりです。
「魔女の宅急便」 配達仕事で落ち込んだって、箒で飛べば。 。 。
監督・脚本:宮崎駿
原作:角野栄子『魔女の宅急便』(福音館書店刊)
〈Story〉
13歳になったキキは箒で飛ぶと、海が見える街を目指して黒猫のジジと旅立ちます。
やがて大きな街にたどり着きます。警官に尋問されるキキを助けたのは少年トンボでした。
キキは泊まる場所もなく、途方にくれてしまいます。パン屋に赤ちゃんのおしゃぶりを忘れた女性におしゃぶりを届けたことから、パン屋の空き部屋を貸りることになります。
キキは宅配便の仕事を始め、時折パン屋で店番をします。初めてのお客さんは甥っ子の誕生会にプレゼントを届けてほしいというものでした。
届けに行こうとする途中、突風に巻き込まれ森の中に落ち、プレゼントの猫の人形を落としてしまいます。キキはジジを人形の身代わりにし、人形を探しに森に戻ります。森の中にある小屋の中に人形を発見、落ちた時にやぶけてしまった人形を小屋の住人ウルスラが直してくれます。
ある老婦人が孫の誕生会にニシンのパイを届けたいと言うので、キキが一緒にパイを焼いて、届けに行きます。途中雨に降られながらも届けますが、孫はこのパイは嫌いだと喜んでいません。
翌日キキは高熱を出します。
少し元気になったキキにパン屋のおソノが届け物を依頼します。その届け先はトンボの家でした。トンボはキキにプロペラのついた自転車を見せます。
そしてその自転車で不時着した飛行船を見にいこうと誘うのでした。。。
「魔女の宅急便(1989)」は、小さい頃にVHSでよく観ていたなって思い出した。観返すのは10年ぶりぐらいじゃないかな。久しく観てなかったですね。
冒頭、キキがあの町を訪れた時、
「私、この町に越してきました」って街中の人に声かけるんです。
みんなが引いちゃった目で、冷たい感じでうまくやっていけるか心配になっちゃう。
魔女がいても、誰も違和感を感じていない。
「魔女のしきたりで、この町に来た」と言っても、
「身分証明書はないんか」とあまり理解はされてなそうな感じでしたね。
存在は知られつつ、珍しいみたいな感じ。
最後は飛行船が墜落するって話だった。
飛行船が墜落しそうになって、そこに出くわしたトンボが飛行船にぶら下がって宙ぶらりんの状態で浮かんじゃって、それを見たキキが助けに行く。その前にキキは飛べなくなっていたのを忘れて勢いのまま助ける。
なんで飛べなくなったんでしたっけ。
作中では明言されてないけど、子供から大人になる思春期のゆらめきを表現しているのかと。。。
そう思うね。
特徴的なのが黒猫のジジね、最初は喋っているけど、途中からニャーとしか鳴かなくなって、あれはキキが子供から大人になるっていう表現でしょう。ジジが喋る相手はキキだけですよ。他の人には、ニャーニャーとしか聞こえない。人の言葉で喋っているのはキキの世界だけやったんやって、某映画のブルース・ウィリスみたいな、会話しているのはこの人だけみたいな。
そういうセンスの話やね。子供が持っているセンスでしょうね。
飛べるようになるけど、ジジの声は聞こえないまま。
子供やったのを、あの街で仕事を始めたり、気になる男の子に出会ったり、そういうのが重なって、大人になっていくんじゃないかな。
仕事がテーマっていう点でいいと思いましたよ。初めての仕事で、女の人から甥っ子に届けてって、プレゼントの配達をお願いされるんです。鳥かごに入った黒い猫の人形です。それを届ける最中で、中の人形を落としちゃって、代わりにジジを入れて時間を稼ぐ。初めての仕事で偽装しているんですね。それで何とかその間に人形を見つけて、すり換える。社会人に大事な「いかにごまかすか」が描かれていますよね。
それで大人になっていくんやね。
この原作は絵本でした?
小説じゃなかったですか。(角野栄子 童話「魔女の宅急便」)原作と内容が違うみたいっすね。
「宅急便」はクロネコヤマトの商標登録です。その関係でスポンサーになった。
トンボくんがジブリの中では毛色が違う。ヒーローとして地に足がついて、そこら辺にいそうな人物として描かれているなって思って。山口勝平もそんな少年を演じています。
ジブリの男の子ってミステリアスな子が多いです。
トンボはフランクだよね。
親しみやすい
見た目が地味なのに付き合っているのは派手な子ばかり。
原作だとキキとトンボは結婚するみたいですね。
最後は映像がダイナミックやったね。
最終的には、事故を通じてみんながそのキキのことを迎え入れてくれるのがいいですよ。受け入れられる過程が描かれている。
ウルスラっていう絵描きの女の子出てくる。
声が高山みなみ。
そうそう、キキとウルスラの声を高山みなみさんひとりで演じていて、びっくりした。山寺宏一のモブ役にもびっくりしました。
何役ですか?
キキが街に来た時に最初に声かける警官で
「君こんなところかってに飛んじゃ駄目じゃないか」
あとは、パン屋さんのおかみさんの旦那さん。
全然喋らない人。
それも二役やね。
あの旦那さんも地味ですけど、いい人ですよ。キキの帰りが遅くて、ずっとお店の中でそわそわして歩き回っている。
キキの宅急便の看板をパンで作って軒先に吊るしたのも旦那さんですね。
黴るやんって思った。
木でできるのかと思ってた。
ジブリパークでグーチョキパン店のパンが買えるらしいです。
キキが居候させてもらうのがグーチョキパン店、ほこりまみれの汚いところで、只とはいえ、めちゃくちゃ汚いじゃないですか。ジジが
「朝になったら真っ白になっていそうだね」って。
ジブリってすごく汚いところを頑張って大掃除するシーンがよくあります。
三角巾をして掃除しがち。
ジブリあるあるで言うと、ご飯が美味しそう。グーチョキパン店のパンが印象に残ってたんだ。それとウルスラの家に遊びに行く車の中で、チューイングガムを食べるシーンがあるんですよ。マーブルチョコみたいな丸くてカラフルのやつね。幼少期に見た時に印象に残っていて、見た瞬間に懐かしい。
ジブリの映画の食べものって、高価なものは出てこないね。
そうですね、ラピュタのチーズが乗ったパンとか。。。
「君たちはどう生きるか(2023)」でもキリコの家でパンを食べる。
僕は「ゲド戦記(2006)」の旅の途中で出されるスープが美味しそう。
ジブリのご飯って躍動感ありますよね。まるで生き物みたいな、生命力さえ感じさせて、美味しそうに見えるんですよね。
こないだ食器屋さんで、ポニョのラーメンと同じ柄の器を買いました。
ジブリの映画で何が好きですか?
「もののけ姫(1997)」
「紅の豚(1992)」かな。
「ハウルの動く城(2004)」ですかね。
渋いな。僕は「耳をすませば(1995)」か「風立ちぬ(2013)」。
「風立ちぬ」もいいよな。「君たち・・」も好きだ。
「君たち・・」は理解できました?
理解っていうより、僕は「魔女の宅急便」と同じように物語として観ました。
そんなに深読みしなくていいと思う。
最初の大火事のシーンがすごくて。これで2時間やってくれって思ったら、一瞬で終わって。。。
ははは
そうだったら、めちゃめちゃ第1位かも知れない。
火事に駆けつけるシーンって今までの宮崎駿とは違うタッチやったね。今までこんな映像なかった。
線がブレブレになる。
ファンタジーって聞いていたんで、単に戦争を描いた話にはならないだろうなと思っていました。
アオサギのポスターでかわいらしいキャラクターかと思っていたら、汚いおじさんで声は菅田将暉。
「魔女の宅急便」を観返してびっくりしたのは、当時はプロの声優さんばっかりでした。
でも、糸井重里が「となりのトトロ(1988)」のお父さん役。
「風立ちぬ」の主人公の庵野秀明は愕然とした。セリフを聞いているうちに慣れてきました。
トトロのお父さんも、そういう系じゃなかったですか。
流暢にしゃべって欲しくないんだろうね。
逆に味がありますね。
「もののけ姫」はアクションがいいよ。めちゃくちゃかっこいい。テーマが好き。
たたら場はこんな感じやったのかなってイメージできるのがおもしろい。
「魔女の宅急便」のポスターの没案を知ってます? 完成形がパン屋さんのカウンターにキキがくたっと寄りかかっています。ボツ案の一つは、キキがトイレに座っている。宮崎駿が書いた絵があるんです。
なんでトイレなんでしょ?
宮崎駿は発想が飛んでいるからアカデミー賞が獲れる。
83歳か。ヘビースモーカーで、第一線でよく活動できますね。「魔女の宅急便」は、実写版もありましたよね。
小芝風花ですね。
監督が清水崇。
えー
ね、ホラーなイメージあるよね。
毛色が違いますね。
「魔女の宅急便」の街並みは、フランスとかそこら辺かな。
最初の上空から見た絵はイタリアか、地中海だろうね。
時代設定も白黒テレビが出てきて、キキが買い物するシーンで昔ながらのガチャンと操作するレジが出てくるんですよね。
2階建てバスもできたね。
いろいろ混ぜているのかな。
wikiの情報では、宮﨑駿によると二度の大戦を経験しなかったヨーロッパという設定です。戦争がなかった世界線。
日本人が見たらそういう感じでも、ヨーロッパの人が見たらへんてこりんかも。向こうから見たら日本と中国と韓国がごっちゃになっているような。
そんな感じですかね。
「母をたずねて三千里」の時はそのままの町並みをトレースしていましたね。
どこが舞台ですか?
イタリアのジェノバ。そこから大西洋を渡って、アルゼンチンに行く。
そこにお母さんがいる。
出稼ぎに行っているお母さんに会いに行く。
お猿さん、アメディオを連れて。心もとないでしょうね。
三千里ですもんね。
ロケハンで風景をカメラに収めて、街並みを再現していました。
へえ、テレビアニメなのに凝っていますね。
そんな下地があるから舞台を混ぜた構想でも、中途半端なことはしていないような気がするね。
「名探偵ホームズ(1984)」の上映が一週間限定でありました。
いろんなジブリのエッセンスがここに詰まっていたんだなって思って。汚いところを大掃除もするし。。。
「ルパン3世」のTVシリーズで、一部宮﨑駿が監督した回があるんです。パート2の2話3話ぐらいかな。作画のクオリティが違うんです。最終回の監督も務めていてラピュタの巨人兵にそっくりなキャラクターも出てくるんですよ。誰が見ても宮﨑駿やって分かる。
キャラクターもいろんな作品で似ています。
「耳をすませば」のカントリーロードを歌うしずくちゃんがいいですね。
図書館の貸し出しカードから始まる出会い、最初にいやなやつとか言っているけど、自転車に二人で乗ったりとか、好きです。
貸し出しカードは無くなってきましたね。
見ても分からない子が増えてきますね。
Eくん
年間 120本以上を劇場で鑑賞する豪傑。「ジュラシック・ワールド」とポール・バーホーヘン監督「ロボコップ(1987)」で映画に目覚める。期待の若者。
サポさん
「ボヘミアン・ラプソディ」は10回以上鑑賞。そして、「ドラゴン×マッハ!」もお気に入り。主に洋画とアジアアクション映画に照準を合わせて、今日もシネマを巡る。
キネ娘さん
卒業論文のために映画の観客について研究したことも。ハートフルな作品からホラーまで守備範囲が広い。グレーテスト・シネマ・ウーマンである。
検分役
映画と映画音楽マニア。所有サントラは2000タイトルまで数えたが、以後更新中。洋画は『ブルーベルベット』(86)を劇場で10回。邦画は『ひとくず』(19)を劇場で80回。好きな映画はとことん追う。
夕暮係
小3の年に「黒ひげ大旋風(1968)」で劇場デビュー。開演に照明が消え気分が悪くなり退場。初鑑賞は約3分。忘却名人。
「ハドソン川の奇跡」 機長の決断という超重量級の仕事。
監督:クリント・イーストウッド
脚本:トッド・コマーニキ
原作:チェスリー・サレンバーガー、ジェフリー・ザスロー
〈Story〉
2009年1月15日、チェスリー・サレンバーガー機長はUSエアウェイズ1549便でラガーディア空港から離陸する。上昇中に鳥の群れに衝突し、2つのエンジンが機能を停止する。
考える時間が殆ど無く、最も近いティーターボロ空港に行くことも出来ないと判断し、サリーはやむを得ず眼下のハドソン川に着水することを決断する。サリーの巧みな操縦により、着水の衝撃で機体が分解することなく、また迅速な避難誘導や、現場周辺に航行する多数の船舶が協力し、大事故ながら、乗員乗客155名全員が無事に避難した。
このニュースは世界中で「ハドソン川の奇跡」と呼ばれ、サリーは一躍ヒーローとなるが、後遺症に悩まされ、家族までもマスコミの注目から逃れられなかった。
サリーは、デジタルデータから左側のエンジンがまだ稼働していたことを知る。理論的には、ティーターボロ空港に着陸させるのに十分な出力があったと主張する国家運輸安全委員会と異を唱えるサリーの両者の関係は緊迫していくのだった。。。
「ハドソン川の奇跡(2016)」は飛行機事故の実話を元にした映画です。これは2009年の1月15日にニューヨークのラガーディア空港から出発した民間飛行機に鳥の群れが衝突するというバードストライクが発生します。左右のエンジンが二つとも機能停止してしまう事故で、機長がニューヨークの上空から緊急着陸をする判断を迫られます。
手順に従って、管制官とやり取りをして、近くの空港に停められるかを検討するんだけど、高度と速度が足りなくて無理だと判断した機長はハドソン川への着水を決断し成功させます。
着水後に浸水が始まって機体が沈み始めますが、都市部だったこともあって、周りの民間船の救助が早くて、乗客乗員が無事に生還します。
これが「ハドソン川の奇跡」と呼ばれて世界中で話題になって、機長は街を歩けばヒーロー扱いをされて、マスコミに囲まれます。その後、国家運輸安全委員会が事故の検証をします。委員会から空港に着陸できたんじゃないか、着水は乗客を危険にさらす判断じゃないかと追及を受けるのが映画のあらすじです。
機長サリーが事故直後のPTSDで、都市部に墜落させてしまう幻覚を見るところから始まって、その後、副操縦士とともに委員会の人たちの取り調べを受ける。委員会のデータでは左側のエンジンがまだ動いていた。当時のデータを再現してシミュレーションを行ったら、空港に戻ることができる。シミュレーションでエンジンが動いていたというのが、サリーには違和感があって、間違いじゃないかっていうと話し合いが平行線になる。聴公会が開かれて、シミュレーションを実際のパイロットで行って検証することになります。
クリント・イーストウッド監督ですね。
主演がトム・ハンクス。副操縦士がアーロン・エッカートで、「エンド・オブ・キングダム(2016)」で、アメリカ大統領役をやっていた。
よく見ます。
「ダークナイト(2008)」にも出ている。
事故が起きた時、機長は大変ですよね。無事に生還できても、英雄か罪人かで裁かれる、そこがクリント・イーストウッドの引っかかるところで、映画化したいと思った。
マンハッタン島の東にイーストリバー、西をハドソン川が流れているので、ニューヨークに近接する川に着水したということです。
意外です。助かるまでのお話っていうよりもその後がメインですね。
トム・ハンクスが追い込まれて悩んでいる。
暗くなっちゃいますね。
味方の人もいるし、どうして川に着水したのかと言う人もいる。
救助する時って寒そうだったね。
1月15日で当時が、気温がマイナス6度。ハドソン川は凍ることもあるらしくて、運よく凍ってなかったらしいんですよ。
凍っていたら終わりでしたね。
ニューヨークは冬に屋外スケートリンクができるからね。
その時期に全員が生還できたのは奇跡やと思う。
素人からしたら、助かったからええやん、よくやったって。
実証するって言っても、本番で結果が出ているのにね。
サリーがずっと悩んでいるのはそのとおりで、サリーは40年以上パイロットとしてキャリアがある大ベテランだけれど、事故の対応に208秒間しかなかった。その208秒間で自分のキャリアが判断されてしまう。
副業として安全コンサルタントもやっていますね。
おもしろいですね。
その仕事も上手くいかなくなってしまう。自宅のローンもある。
ぐにゃぐにゃと人生にしわが寄ってくる。
調査中は家に帰れない。マスコミに囲まれるので、ニューヨークのホテルに缶詰にされて、家族と会うこともできない。家族に電話したら家の方にもマスコミが大勢詰めかけて家族も参っている。ホテルから委員会の聴取を受けに行く時とか、テレビ局に出演しに行く時にもマスコミに囲まれて大変。
クリント・イーストウッドはこういうテーマが好きやね。
「リチャード・ジュエル(2020)」も、コンサートのテロの爆破事件の時に、爆弾を見つけて、みんなを避難させて英雄になるけど、テロリストと疑われる。英雄なのか、犯罪者なのかどっちやって。
テーマが一緒ですね。
ノンフィクションだからリアルで、辛いよね。
形式的にでも事故の検証はしなきゃいけないんですかね。取り調べを受けるのが手続きでしょうけど、そこでまた評価が一変してしまう。
バードストライクは防ぎようがないもんね。
そうです。誰が悪いわけでもない。
サリーは若い頃に近所の人から複葉機、二枚羽がある飛行機の操縦の仕方を習ったのが始めで、その時に飛行機事故で亡くなったパイロットを見て、操縦士は絶対に事故を起こしてはいけないと心に刻んだ。実際に起きている航空事故についても、よく調べて、頭の中でシミュレーションをする人でした。
事故直後のパイロット二人のやり取りの場面が2回出てきます。冷静でプロってこういう仕事をしないといけないなと思う。ヒーロー扱いをされても自分がやるべき仕事をしただけっていうスタンスはかっこいい。この映画を見た時に、ちゃんと仕事しようと思いました。
ああ、いい映画やね。
トム・ハンクスの吹き替えって、絶対あの人(江原正士さん)がいいって思いませんか。
声のイメージが固まっている。
骨格と声が合っていそうですね。
クリント・イーストウッドは93歳らしいです。すごいですね。
私のおじいちゃんは日本人ですけど、顔がめっちゃ似ているんですよ。
「チップス先生さようなら」 教師人生で最後に伝えたことは。
監督:ハーバート・ロス
脚色:テレンス・ラティガン
原作:ジェームズ・ヒルトン
〈Story〉
1924年、英国南部、ブルックフィールド。48歳のアーサー・チッピングはパブリックスクールに古典教師として勤め、生徒たちから人気がない。
夏休みになると、チップスはイタリアへの旅に出かける。
途中、ロンドンで昔の教え子がミュージカルに連れていく。教え子が片思い相手キャサリンをみせる。劇が終わり打ち上げでキャサリンと出会ってもチップスは興味がない。
ポンペイの遺跡でキャサリンと再会する。キャサリンは傷心旅行で、遺跡を案内してほしいと言う。
チップスはキャサリンにとってまったく未体験の男だった。チップスは教え子が相応しいとキャサリンに推薦する。キャサリンは教師の妻になりたいと言う。
学校中で大騒ぎになり、有力者サタウィック卿はチップスを学校から追い出さなければ援助をしないと校長を脅す。
噂を聞いてキャサリンは逃げ出し、それをチップスが追いかける。
キャサリンは生徒たちに人気があり、次第にチップスの魅力にも惹かれていく。
そして、チップスに校長への内示が来たのだった。。。
「チップス先生さようなら(1969)」。これはね、ジェームズ・ヒルトンが書いた小説で映像化されたのは2回目かな。
小説が良くて三度、日本語に翻されています。ジェームズ・ヒルトンは「失われた地平線」も書いています。いろいろ映像化されました。他にも有名な映画があったけど、忘れちゃった(「鎧なき騎士(1938)」、「心の旅路(1947)」など)。
「チップス先生さようなら」はイギリスが舞台です。チップス先生は男子校の高校の古典文学の教師で、性格がきちっとしています。ヒロインはミュージカルの女優です。全く違う世界の二人が、偶然巡り合って恋に落ちるストーリーです。世界が違う二人が恋する物語の構造は「タイタニック(1997)」とか「王様と私(1956)」の形式かな。
仕事という切り口で見ると、教師という仕事とは何かという話ですね。
チップスは若くないんだけど結婚をしなくて教師を続けている。この教師役が「アラビアのロレンス(1963)」に出ていたピーター・オトゥール。固いことばかり言うので嫌がられているんですよね。ジジイとかクズとかあだ名をつけられて生徒から疎まれている。
夏休みになると生徒たちはお家に帰れて、チップスはイタリアのポンペイの遺跡に行くんですよ。旅行先で友達からミュージカルを観ようって誘われます。
その友達が好きなのが脇役の女優で、その打ち上げパーティーにもチップスを連れて行く。チップスは堅いのでパーティーでも馴染めない。有名な俳優を紹介されても分からないので、早々に帰っちゃう。
ポンペイの遺跡に行くと、ガイドより詳しいので、ガイドが去ると一人ぽっちになる。古代の円形劇場で休憩していると一人の女性が入って来る。それが、あのミュージカル女優で遠くから
「ここは声がよく響くね」って声をかけてくる。
「音が響く建築構造ですよ」チップスがサンドイッチを食べながら解説をする。
「そのサンドイッチ美味しいの?」女優はズケズケと近づいてきて、
「じゃあ、案内してよ」とポンペイの案内が始まります。女優キャサリンは傷心旅行だったんです。アポロの像で占えると知って、キャサリンがそこで占いをする。心の中で問いかけると答えが返ってくる。チップスには女優を辞めたいと言う。二人でいる間に、チップスのことを気に入って、教師の奥さんになれるかしらと呟く。アポロの回答は出ていたみたいで、やがてチップスと結ばれます。
カメラの映し方が慎み深い。カメラが上に目をそらして遠景に、下へ戻すと二人がキスをしているといった撮り方。
夏休みが終わって二人は結婚します。始業式で全生徒が講堂に集まって、そこで奥さんを紹介する。みんなが噂をする
「チップス先生と女優って釣り合い取れない、あの娘が奥さんになるんだったら先生の将来もないね」そんな噂を耳にしてキャサリンは身を引こうとする。街を出ようとするのをチップスが追いかけて、
「人は釣り合いとか言うけど、『釣り合い』という言葉は載っている辞書もあれば載っていない辞書もある。でも『愛』という言葉は全ての辞書に載っているんだ」って言って連れ戻す。
キャサリンはミュージカル女優だけに、生徒の扱いが上手。チップスは生徒からは疎まれているんですよね。
お堅い人なんですね。
やがて戦争が始まるんですよ。
第二次大戦。
チップスに校長にならないかっていう話が持ち上がる。前任者が
「僕は引退するので、チップスを推薦しているんだ」
周りのみんなは次の校長はチップスだと。チップスもやっと校長になれると思っている。蓋を開けてみると、違う人やったんですよ。政治的なことがあってね。
キャサリンを校長の奥さんにさせてあげられると思っていた。そういう夢も与えられなかった。子供もできなかった。
「申し訳ない」って言うと、キャサリンは、
「私はたくさん子供たちがいる」と答える。
チップスが前任者に辞職を申し出ると、前任者は
「伏して頼むから、辞めないでほしい」と懇願する。
「そこまで頼まれるんだったら、やりなさいよ」ってキャサリンの言葉で続けることにする。そのおかげで、月日が経って校長の話がまた舞い戻ってくる。
キャサリンはミュージカル女優だったので慰問の話が来るんですよ。戦地に出向くんですよね。出発する時に、チップスが
「キャサリン、次の校長が決まりそうだ」その言葉は車が出ていくので、聞こえない。
「帰ってから話聞くよ」とキャサリンが行ってしまう。
爆撃がくると
「全員避難して」って生徒たちは机の下に隠れる。この学校が狙われているの? って生徒たちが訊くぐらい投下されます。
生徒たちは、キャサリンのおかげでチップスのことも好きになっている。授業中に
「次の校長はチップスだ」と話をしている。
そこに伝達が来ます。他の教師がチップスを教室から呼び出す。生徒たちはお祝いのメッセージを書く、ただ書くのも面白くないから、次の校長は期待できないとかってふざけて書いて、それぞれが教壇の上に手紙を置くと、チップスが戻ってくるんですよ。
でもチップスは呆然としていて、授業を始めようとしないので、生徒は、
「手紙が教壇の上に。肘の下にありますよ」って言う。
チップスはそれを一つずつ読んでは綺麗に畳んで置いていくんです。教室に生徒の一人が来て、キャサリンが戦地で亡くなったことを生徒たちに伝える。生徒たちは
「その手紙を読まないで欲しい」って言う。チップスはいつまでもそれを読んでは畳んで置いていきます。
年月が過ぎて、チップスは校長の勤めも終わって退任式で演説をする。生徒一人ずつの名前も性格もみんな覚えていて、演説が良くてね、感動的ですよ。
それから何年も経って、古典を教えることが子供たちの役に立ったのかって振り返る。
「それよりも、自分は間違いなく子供たちに『礼節』と『マナー』だけは教えてきた。それが教師にとって一番じゃないか」というのが、最後のセリフです。
教師という仕事の本分をジンワリと考えてしまう映画ですね。
全体的には戦争の話もあるんで、終盤シリアスになりますけれども、コメディですか?
コメディではないです。ミュージカルです。
ミュージカルでも登場人物が歌うシーンが少なくて、バックで歌っているのが多いんですよ。
登場人物が歌っているわけではない。「サウンド・オブ・ミュージック(1965)」みたいではない。
心象を歌っていて、映像の背景で歌が流れますね。
ジョン・ウィリアムズは気になります。
音楽はいいです。シンフォニックな厳かなモードです。映画の前にも。。。
序曲(Overture)でしょう。
そうそう。終曲(Finale)もあります。
映像はなくて、一二分ぐらいの音楽だけ流れる時間。
俯瞰のロングショットの校舎に音楽だけが流れます。
昔の大作映画にありますよ。
長い作品じゃないので、インターミッションは無くて、序曲と終曲だけがある面白い作りです。
今回配信で観て、本編はこんなふうになってたんやって分かりました。
ぜひ見てほしい映画のひとつです。ピーター・オトゥールもいいですよ。
「アラビアのロレンス」の7年後か。オスカーを獲れなかったのは知っています。この作品でゴールデングローブ賞主演男優賞を獲ったんですね。
検分役の音楽噺 ♫
『チップス先生さようなら』(69)の項で、「序曲」の話題が出たので、映画における「序曲」に触れようと思いましたが、それはまた別の機会に。
今回はジョン・ウィリアムズとレスリー・ブリッカスのことを。
『チップス先生さようなら』はミュージカル映画というよりも、音楽映画という印象なのですが、劇中の楽曲を書いたのはレスリー・ブリッカスで、
ジョン・ウィリアムズはオーケストレーション(オーケストラが演奏するように楽曲を編曲すること)や劇伴(スコア)の作曲を手がけました。
『チップス先生さようなら』の「序曲」、「終曲」は、まさにブリッカスが書いた楽曲をウィリアムズがアレンジし、彼が指揮してオーケストラが演奏した楽曲になります。
ウィリアムズは続く71年の『屋根の上のヴァイオリン弾き』でも同様の仕事をしており、その時は編曲賞(現在はそのカテゴリーはありません)でオスカーを獲っています。
これがウィリアムズにとっては初のオスカーでした。
その後、75年の『ジョーズ』で初めて作曲賞でオスカーを獲得.その後の活躍は周知の通りです。
一方、レスリー・ブリッカスはイギリス出身のシンガーソングライターで、アンソニー・ニューリーとコンビで70年代からショー・ビジネスで活躍。
ジョニー・デップじゃなく、ジーン・ワイルダーがウィリー・ウォンカを演じた『夢のチョコレート工場』(71)の楽曲で頭角を現します。
サミー・デイヴィズJr.が唄ってヒットした挿入歌「キャンディマン」は特に有名でしょう。
007シリーズの『007ゴールドフィンガー』、『007は二度死ぬ』の主題歌をジョン・バリーと共に作ったのも、ブリッカス&ニューリーのコンビでした。
ウィリアムズとブリッカスは『チップス先生さようなら』の後も、『スーパーマン』(78)、『ホームアローン』(90)、『ホームアローン2』(92)、『フック』(91)などで、
ウィリアムズが書いた音楽に作詞をしてコラボレーションしています。
残念ながらブリッカスは2021年に90歳で亡くなっています。
ウィリアムズといえば、どうしても劇伴がメインの作曲家というイメージが強くて、実際に長いキャリアの中でソング・ナンバーを手がけた作品は少なく、
そのほとんどがブリッカスとの共作であることを考えると、よほど相性がよかったのかもしれませんね。
(対話月日:2024年4月18日)